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群論の軽い説明

残念ながら自分は応用群論にしか興味がないのです。

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リー群は群論の一部

 これから「リー群」または「リー代数」と呼ばれる分野について説明したいと思う。  リー群は「群論」と呼ばれる数学の一部分ではあるが、独立した一分野のような広がりを持っている。  群論の教科書を開いてみても「リー群」の話は紹介程度にしか載っていないことが多い。

 群論の初歩については分かりやすい本も多く出ているので、私が説明する必要を感じない。  群論を学ぶには多くの具体例を知っておくのがいいと思う。  私はできるだけさっぱりとまとめて説明したい質(たち)なので、 多くの具体例をいちいち紹介するような説明が苦手なのである。

 しかし「リー群」というのが何なのかを説明するためには、 「群論」というのがそもそも何なのかを少しくらいは説明しておく必要がある。  読者はこの先を読み進む前に群論の教科書を何冊か、 それぞれの教科書を分かるところまで読んでおいてもいいが、 予備知識がほとんどなかったとしても、私のざっとした説明を理解することは出来るだろう。


群とは何か

 数学での群というのは英語では Group であり、まさにグループのイメージである。

 まず集合を考える。  この集合の要素が次の 4 つの性質を持つ時、その集合のことを「群」と呼ぶ。

(1) 積もまた集合の要素になっていること。

 集合の要素からどれでも二つを選んで計算をした結果として何かが得られる共通のルールが定められているとする。  この計算ルール、または計算結果のことを「積」と呼ぶことにしよう。  「積」と呼んでいるが、それが掛け算だとは限らない。  二つの要素を使って計算する何らかのルールがあればいいので、それが足し算であっても構わない。  この時、同じものを二つ取り出して計算しても良いとする。  さて、ここで一番大事なのは、結果として得られた積も同じ集合の要素になっていることである。  計算ルールとその結果がグループ内の要素だけで完結していることを重視するわけだ。

(2) 結合法則が成り立つこと。

 結合法則というのは というやつだ。  先ほどは二つの要素を選んで計算をすると書いたが、二つの要素の積も同じ集合の要素なのだから、 それに対してさらに別の要素を掛けることができる。  こうして 3 つ以上の要素の積を考えることができるのだが、 どこから計算しても同じ結果になることを保証するのがこの法則である。  これによって、わざわざカッコを付けなくても 3 つの要素の積は のように書くだけで良くなる。

(3) 単位元が存在すること。

 単位元というのは、 となるような要素 のことで、 それはつまり、他のどんな要素との積を計算してももとと変わらない結果になるような要素である。  それは掛け算のときの数字の 1 に似ている。

(4) 逆元が存在すること。

 逆元というのは、 となるような要素 のことで、 そのような要素を と表す。  全ての要素にそれぞれ逆元がなければならない。


群の周辺

 なぜこのような性質を持つものを重視してわざわざ「群」などという概念を作ったのだろうかと思うかも知れない。  いや、私は思った。  何か理由や目的があってこのような理論を作ったはずだ、などと疑ったわけだが、 どうやら数学は「実用的な目的」のようなものをほとんど意識していないらしい。  これらの組み合わせをもとにして広がる論理が面白かったので、こんなにも発展したのだろう。

 実際、他の組み合わせもちゃんと研究されているようで、 群によく似ているが、少しだけ条件を変えた色々な概念が他にもある。  それは「半群」やら「モノイド」やらと呼ばれている。  (1) の条件だけを満たすものは数学用語で「マグマ」と呼ばれているが、 これだけだとあまりにもとりとめがなさ過ぎて理論が深まらなかったようだ。  参考までに Wikipedia の「マグマ(数学)」の項目を読んでみても面白いだろう。

 また、群をもう少し広げた「環」や「体」という概念もある。  群だけが特別なのではなく、数学はすでに色々と調べ尽くしているというわけだ。

 群と呼べる条件は上に書いた 4 つだけだから は満たしていなくても構わない。  積の順序を変えると違う結果になることが許されている。  むしろ、積の順序を変えても同じ結果になる方が特別視されていて、 そういうものも群の一種だが「可換群」あるいは「アーベル群」と呼ばれている。  それ以外を「非可換群」あるいは「非アーベル群」と呼ぶ。


群の使い道

 群論は、結果として、数学の代数構造の分類をするのに役に立つ。  見た目やイメージが異なる別分野であっても、そこで使われている記号や計算内容のつながりを比較すると、 全く同じ内容のことを実行しているに過ぎないと気付くことがある。  そのような事例を沢山集めて名前を付けて分類することによって、 「この分野のこの論理と、別分野のこの論理は同じ構造を持っている」だとか、 「全体としては異なるが部分的に似た構造を持っている」だとかいうことがはっきり意識できるようになる。

 計算だけとは限らない。  図形を回転させたり反転させてみたり、座標変換をしたりするときの移動のパターンなどにも同じ構造を持つものがある。  構造に着目して議論するので、図形だろうが記号だろうが、そういう見た目には縛られない。  だから、図形の対称性や、理論の対称性などといったものにも関連した議論ができる。

 このようなものが物理でどう役に立つかと言えば、 結晶構造の分類や、量子力学に出てくる波動関数の対称性、座標変換の対称性などと関係しているところである。  広い視点で考えを整理したり、新しいアイデアを持ち込んだりできるだろう。  まだよく分かっていない時空の高次元の構造などを議論するのにも使えるのである。

 これから続く記事で「リー群」を説明しようとしている目的は、 回転の対称性、特に量子力学に出てくる角運動量やスピンの記述を理解するためである。  そしてそれをさらに拡張して使うことで、素粒子の分類の役にも立つだろう。


リー群とは何か

 リー群とは何かということを書いておこう。  今話しても少しも分からないかも知れないが、 書かないで先延ばしにすると気になって仕方ないと思うので早めに書いておくのである。  なんとなくでも覚えておくとその内に関連した話が出てくるのに気付くと思う。

 リー群とは群の要素が

という形を持った群である。  この というのは行列であり、その要素は複素数である。  指数関数の肩に行列を載せている辺りでもう何を言っているのかさっぱりわけが分からないかと思うが、 その意味はこれから説明してゆくので安心して欲しい。

 別の説明をしても今は分からないと思うが、もう一つ書いておこう。  それは上に書いた

という関係を持つようなものである。  ただし、 の組み合わせによって決まる定数であり、左辺にある記号は、

という計算をするという決まりを表している。

 この二通りの説明は同じものであることが簡単に証明できる。  (1) 式の形で表された要素が群であるなら (2) 式を満たすし、 (2) 式の関係を持つ で作った (1) 式の形のものを集めれば、その集合は群になっている。  しかし読者はまだそんなことにまで興味が向くどころではないだろうから、 その証明は意味が分かるようになってからにしよう。

 (2) 式を満たす代数構造を持つものを「リー代数」と呼ぶ。  だから時々、「リー群、またはリー代数」などという表現がされるのである。  (2) の代数構造は積と和の二つの演算規則を使っていて、 そういうものは群ではなく「環」と呼ばれるので、「リー代数」の代わりに「リー環」と呼ばれたりもする。  「リー群、またはリー代数(リー環)」といった感じだ。

 難しい説明をしてしまったが、その具体例はとても簡単なものである。  例えば、座標の回転を表す変換行列

はその一例である。  (1) 式とは似ても似つかないと思うかも知れないが、これは (1) 式の形で表すことが可能なのである。  それについてはいずれ説明しよう。  この他に、ユニタリ変換の行列も同じである。  このように、リー群は具体例を考えるととても簡単だ。

 リー群は他にも色々とあるのだが、私が説明したいのは、回転行列とユニタリ行列の構造についてである。  これらは量子力学や素粒子論の物理でよく使うものだからだ。


群の種類の表記

 群論では色んな構造に名前と記号を付けて分類している。

 例えば、 次元のユニタリ行列の集合は群になっている。  ユニタリ行列どうしの積はやはりユニタリ行列になるし、行列の積では結合法則も成り立っているし、 単位行列もユニタリ行列の一種であるし、ユニタリ行列には必ず逆行列もあるからである。  これと同じ構造の群を「 次元ユニタリ群」と呼び、U(n) と表記する。

 また、行列式が 1 であるようなユニタリ行列だけを集めても群になっている。  というのは、行列式が 1 であるようなユニタリ行列どうしの積を計算してみると、 やはり行列式が 1 であるようなユニタリ行列にしかならないからである。  これはユニタリ行列の中でも特別な条件が付いたものなので、 「特殊ユニタリ群」と呼び、SU(n) と表記する。  Special Unitary の略である。

 回転行列についても同じような表記が行われている。  回転行列は直交行列の一部であった。  直交行列というのは座標の回転の他に鏡像変換(座標軸の反転)をも含んでいるからである。  直交行列の全体は群になっているので、「直交群」と呼び、O(n) と表す。  O は Orthogonal(直交)の頭文字であり、n は行列の次数である。

 行列式が 1 であるような直交行列というのは回転行列のことであるが、これだけでも群になっている。  これは「特殊直交群」または「回転群」と呼ばれ、SO(n) と表す。  Special Orthogonal の略である。

 これから行う説明で興味があるのはこれくらいだろう。  もっと具体的に言えば、SU(2)、SO(2)、SO(3)、U(1)、SU(3) であり、 難易度を考慮してこの順に話そうと考えている。


方針

 数学の教科書でやっているような抽象的な議論では何のことを話しているのか分かりにくいので、 まずは具体例を幾つか挙げて、 それを後で数学の教科書のような形に一般化したいと思う。

 白状すれば、そこまでできるかどうかは自信がない。  というのも、リー群について詳しいところまで説明しようとすれば、 やはり群についての基礎知識があれこれと必要であり、そこから説明するほどの気力はないからである。  必要になれば説明する気になるかも知れないし、できるところまでやってみようと思う。


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