誤差の種類

系統誤差と統計誤差の響きが似ていて紛らわしい。

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実験は不可欠

 物理という学問には実験で確認する作業が欠かせない。 理論だけ先走ったのでは、本当は有りもしない「よく出来た世界」を作ることも出来てしまうからだ。 「よく出来た理論」が現実の世界から離れて行ってないかを見るためにいつでも実験を行って確かめる必要がある。

 新しい理論は多くの研究者によって日々提案されている。 その大部分が、提案された時点では正しそうに見える。 しかし実験の結果と合わなかったものは容赦なく捨てられて行く。 生き残る理論はほんの一握りなのだ。


実験データは誤差を含む

 我々が実験で得るデータのほとんどは実数である。 長さを測るのも、時間を計るのも、重さを量るのも、電流の大きさを知るのも、目盛りを読むことで得られるからだ。 そこには必ず誤差が生じる。 誤差の原因は様々である。 それを説明するのが今回の目的である。

 幾つかの実験においては誤差のないデータというのも存在する。 例えば、粒子が検出された数を数えたり、振動の回数を数えたりする。 回数や個数は一つ二つ・・・と数えるものだから、測定値としての誤差はない。 しかし測定している期間や測定する領域などにバラつきがあるので、実験によってはデータの値にバラつきが生じることがある。 そのような場合には同じ計測を何度も行なって、統計的な手法で処理をすることになる。

 実験で色んな量を測定するとき、どこまでも正しい数値が得られるわけではない。 実験器具についている目盛りの一番細かな幅よりも小さな値は読み取ることが出来ないからだ。 いやいや、だいたいの勘で読み取ることができるかも知れないけれども、読む人のクセが出たりするものだ。 いつだって実際より大きめに読んだり、小さめに読んだりと言った具合のことが起こり得る。 他にも、読もうとしている針の先がいつまでも細かく揺れていてどこを読んだらいいか分からないということもあるだろう。

 それよりさらに細かい桁については数値を読もうとするだけ無駄である。 確かさはほとんどないだろう。 信頼出来ない数値である。

 測定しようとしているものの実際の値というものはあるはずだ。 それを「真の値」と呼ぶ。 しかし色んな原因で測定値は真の値からズレる。 そのズレの大きさのことを「誤差」と呼ぶ。


誤差の種類

 誤差の原因には幾つかあって、分類されて、それぞれに名前が付いている。 我々は誤差の正体を知って、それを減らすように対策しないといけない。 減らせない場合にでも、その原因がどこにあって、大きさがどれくらいであるのかを把握しておかないといけない。

 次に書く分類は定義ではないので、おおよその説明として柔軟に考えてもらいたい。 分類の仕方も人によって違っていたりする。

系統誤差

機器誤差  測定器の校正不足、補正不足、正しい条件で設置されていないことによるずれなど。  定規やマイクロメーターや温度計などの正確さは、機器ごとにばらつきがあるものである。
理論誤差 実験値というのは直接測定して得られるものだけとは限らない。 直接は測れないけれども、すでに測定した別の量の値を組み合わせることで理論的に得られる実験値もある。 その時に使った理論が少しばかり正確でなかったらどうだろう? この誤差は理論を修正することで減らすことができる。
個人誤差 目盛りを大きめに読む人、小さめに読む人、偶数で読む人、奇数で読む人、色々いる。 これらは大抵の場合、無意識である。 訓練次第で正確さを増すこともあるし、数人でデータを読んで比較するなどの工夫もできる。

偶然誤差

測定誤差 同じ方法で測定しているように見えて、測定のたびに条件が微妙に変わったりすることは良くある。 測定する人間の五感も一定ではない。 測定方法の中に読み取り値の変動を許す要因が含まれている場合がある。
統計誤差 その他、制御できない要因の組み合わせによって測定値にバラつきが出ることがある。 器械の状態も、外界の状態も常に変動しているからである。

過失誤差

 実験者の勘違いや機器の操作ミスなどによって入ってくる誤差。 目盛りの読み間違い、記録間違い、実験に必要な条件が正しく整っているかを事前に確認するのを忘れたなど。 光ファイバーの接続の緩みの為にニュートリノが光速を超えているという結果が出てしまったのもここに分類される。 あってはならない類の誤差だが、こういうことが起こり得ることを無視してはいけない。

 系統誤差は真の値から一定方向にずれる傾向があるが、偶然誤差は真の値の周りにばらつく傾向があるのである。 系統誤差が少ないことを「正確さ(accuracy) が高い」と表現し、偶然誤差が少ないことを「精密さ(precision) が高い」と表現する。 「精度」という言葉はそのどちらにも使われる。

 偶然誤差が小さいのは、それだけ揺らぎの要因を抑えた実験ができているということである。 しかし偶然誤差は統計処理を行うことで、測定回数を増やすほどに真の値に近い値を得ることが出来る。 その辺りは統計の手法に関する理論を学ばなくてはならない。


教科書による違い

 他の書物を読むと、誤差の種類についてもっと詳しく分類してあるものもあれば、かなり大雑把に分類してあるものもあるだろう。

 測定誤差と統計誤差ははっきり区別ができないことも多いので、測定誤差を統計誤差に含めてひとまとめに論じることもある。 その時には、偶然誤差という言葉と統計誤差という言葉に差はないだろう。 例えば、手持ちの教科書などに「誤差には系統誤差と統計誤差がある」という表現がしてあっても間違いだと考えるべきではないということだ。 過失誤差のことを忘れてるじゃないか、と思うかもしれないが、その人にとっては過失誤差は「当然有り得るものだと知ってはいるけれども、有ってはならないものだから、わざわざ論ずるには足りない」という厳しい態度を取っているのだろう。 実験の状況によっては、過失誤差を系統誤差か偶然誤差の中に分類してしまうこともある。

 どんなところに誤差の原因が潜んでいるか、どんな感じに分類されているか、今回の話でおおよそのことを知ってもらえれば良いと思った。


定義が変わった!?

 ここまでに書いたのは 1993 年以前の古い知識だ。 この記事を公開して早々、読者から重要なことを教えて頂いた。

 1993年に国際度量衡委員会の主導により、「誤差」や「精度」という表現の使い方について新しい統一指針が発表されたそうである。 (参考: Wikipedia「不確かさ」

計測における不確かさの表現のガイド―統一される信頼性表現の国際ルール

国際標準化機構 (ISO) などが出した文書を訳したもの。
アマゾンの読者コメントによると、とても読みにくいらしい。

 こちらのリンク先の文書は分かりやすい。→「不確かさの入門ガイド(PDF)

 要するに、この記事の中で系統誤差と呼んでいるものこそが「誤差」であり、偶然誤差と呼んでいたものについては「不確かさ」と呼ばれるべきだと決まったようだ。

 古い教育を受けていた人は知識を更新する必要がありそうだ。


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