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電子ボルト

素粒子分野では普通にこれを使う。

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定義

 素粒子の分野では粒子のエネルギーを表すのに「電子ボルト」という単位を使う。  英語でいうと「エレクトロン・ボルト」で、記号は eV である。  エネルギーを表す単位と言えば普通は「ジュール」で、記号は J だが、こちらは滅多に使わない。

 1 eV というのは、1 V の電位差で電子を加速するときに電子が得る運動エネルギーのことである。  プラスとマイナスの電極の間の電位差が 1 V なら、 電子はこの電極の間の電場に加速されて移動する間に、必ずこれだけのエネルギーを得る。  電極間の距離は関係ない。  距離を伸ばせば電場は弱くなるけれども力を受けながら移動する距離は増えるし、 逆に距離を縮めれば電場は強くなるからである。

 そのエネルギーをジュールの単位で求めようとすれば、次のように計算できる。

 この式を見ても分かるように、このエネルギーの計算に電子の質量の大きさは関係ない。  だから電子だろうが水素イオンだろうが、同じ大きさの電荷を持っている限りは、 同じ運動エネルギーを得ることになるのである。

 1 eV というのがとても小さなエネルギーであることが分かるだろう。  しかし粒子一個にとってはそんなに小さいわけではない。  ジュールを使ったのでは、いつだって 10 のマイナス何乗とかいう表現をしなくてはならなくて面倒くさい。

 もし 1000 V の電位差で加速したならば 1000 eV すなわち 1 keV(1 キロ電子ボルト)のエネルギーとなる。  放電管の中で加速された電子やイオンはだいたいこれくらいのレベルのエネルギーを持つことになるだろう。

 それ以上に加速しようと思ったら、 例えばさらに 1000 倍のエネルギーにしようと思ったら、100 万ボルトの電位差を使えばいい。  しかしそれよりも周回軌道を何度も回らせて加速した方が手軽な装置で実現できるだろう。  そんな場合でも、粒子のエネルギーはやはり電子ボルトを使って表す。

 1 keV の千倍は 1 MeV(1 メガ電子ボルト)、さらに千倍は 1 GeV(1 ギガ電子ボルト)である。  最近ではさらに千倍の 1 TeV(1 テラ電子ボルト)にまで加速できる装置も使われるようになってきた。


読み方

 ところで、日本国内では keV、MeV、GeV、TeV はそれぞれ、 ケブ、メブ、ジェブ、テブと読まれることが多い。  日本の研究者たちの間だけでしか使われていない読み方だとずっと前に聞いたことがあるが、 その後、世界に広まったかどうかは知らない。


質量の表現

 粒子の運動エネルギーを表すだけでなく、粒子の質量を表すのにも電子ボルトが使われる。  エネルギーと質量は相互に変換するものからだ。   の式を使って換算してやればいい。

 例えば電子の質量は 0.511 MeV、あるいは 511 keV と表される。  あらゆる素粒子の質量をこんな感じで表わしておけば、 加速器でどれくらいのエネルギーまで加速すれば真空からその粒子を生み出すことが出来るのか、 という感覚と直結していて分かりやすい。  kg の単位を使って表したのではどの値も小さ過ぎて、その辺りが実感しにくいのである。  最初はかえって分かりにくいかも知れないが、慣れの問題だろう。


エネルギーと現象のイメージ

  1 eV   

 1 eV のエネルギーというと、だいたい、原子の中に束縛されている電子のエネルギーがそれくらいのレベルである。  化学変化のエネルギーがこのレベルなのである。  これは偶然ではない。  乾電池で生み出される起電力というのは、1.5 V とか、1.2 V だとか、だいたいどれも 1 V 前後だろう。  ボルトという単位は、もともとボルタ電池の起電力に合わせて作られたのだった。  化学電池の起電力というのは化学変化のエネルギーによって生み出されるのだから、 それに関わる電子のエネルギーも同じくらいだというわけだ。

 可視光のエネルギーも同じくらいである。  そもそも目に見える光というのは、目の中の化学物質が光を受けて化学的に反応することで見えるのだから、 ちょうど化学変化を引き起こすくらいのレベルなのである。


  1 keV   

 1 keV のエネルギーというと、先程も少し話したが、だいたい、真空放電をするときの 電子やイオンのエネルギーがそれくらいである。  そして X 線のエネルギーもだいたい同じレベルである。  というのも、数千ボルトの電圧で真空放電の実験などをしている時に見つかったのが X 線であり、 それくらいのエネルギーに加速された電子が物質に衝突したときに出てくる電磁波だからである。


  1 MeV   

 1 MeV のエネルギーというと、 放射性物質から飛び出してくる粒子のエネルギーがだいたいそのレベルである。  原子核内の粒子の運動エネルギーがそれくらいだということである。  原子核はそれくらいのエネルギーで結びついているのだとも言える。

 1 MeV と言えば、電子くらいの軽い粒子を対生成で生み出すことのできるエネルギーである。  同じことだが、電子と陽電子が対消滅したときに出てくるガンマ線はこのレベルである。

 ところで、原子核からは数 MeV のガンマ線だけでなく、 数 keV くらいの X 線と同レベルのエネルギーしかない電磁波が出てくることもある。  それでも原子核から出てきたり、素粒子の反応で出てくる電磁波はみんなガンマ線と呼ばれる。


  1 GeV   

 1 GeV と言えば、陽子や中性子の質量がちょうどそれくらいである。  そういう重い粒子たちの関係する反応を調べたければ、 加速器でこのレベル以上にまで粒子を加速してやる必要があるということだ。


  1 TeV   

 1 TeV となれば、現在の最高レベルの加速器の性能がそれくらいである。  最も重いクォークであるトップ・クォークが 170 GeV 前後であり、ちょっと前に見付かったばかりだ。  他に未発見の現象がないかどうか、さらに性能を上げて調査中である。


 こんな具合だから、キロか、メガか、ギガか、テラかを聞いただけで、 どんな現象に関わっているエネルギーであるかがすぐにイメージできるのである。  これで少しは慣れてもらえただろうか。


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