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物質中での磁場

BH はどう違う

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磁場の強さ H と磁束密度 B

 ここまでは磁場を という記号で表してきたが、 電磁気学では磁場を表すのにもう一つ、H という記号で表される概念がある。  今回の説明の中ではこの二つの概念をはっきりと区別するために を「磁束密度」と呼び、 を「磁場の強さ」と呼ぶことにする。  これらの呼び方は歴史的な背景を持つものであって、必ずしも概念の本質を表すものではないと いうことをあらかじめ注意しておこう。  私はこのことを聞いてはいたが軽く考えていたのでひどく悩まされることになってしまったのである。

 私は学生の頃には深く考えることをしていなかったので、  「磁場の強さ は磁性体の有無に関わらず一定の値をとる」という 結論だけを聞いて、 「状況に関わらずに一定の値を取る方がより本質的な物理量に違いない」 と勝手に信じてしまっていた。  名前からしてもそんな気がするし、マクスウェル方程式の形を見ても 電場 と対を成しているのは磁場の強さ の方であるようだ。

 しかし、実際は逆なのである。  このあたりの話は電磁気学の中でも少し面倒な部分となっているので 今回の説明でこのような混乱をすっきりさせようと思う。  説明の仕方さえ気をつければ誰も混乱するはずのないとても簡単な話である。


分子電流

 物質は無数の原子から出来ており、原子は原子核と電子から出来ている。  この電子が原子核の周りに角運動量を持っているために、原子の周囲には円形の 電流が流れているのと同じ状態になっている。  この電子の運動が作り出す円形電流によって原子の一つ一つが 微小な電磁石になっていると考えられる。

注: 今回の議論の本筋とはあまり関係はないのだが、 これだけの説明では読者に誤解を与えてしまうかもしれないので少し補足しておこう。  まず、電子の全てが原子核の周りに角運動量を持っているわけではない。  例えば s 軌道にある電子は軌道角運動量を持たないので磁場を作ることはない。  また電子は軌道角運動量の他に自転角運動量(スピン)を持っており、 これが作る磁場も無視できないほどである。  実際、身の回りによく目にする磁石や鉄などが作る磁場はこのスピンの影響を抜きにしては 語れないのだが、ここでは語るつもりもないし面倒なので無視している。

 この原子単位の電磁石を呼びやすいように名前をつけたい。  上では原子単位と書いたものの、 分子として一単位となっているような場合もあるので、 これからはこれを「分子磁石」と呼ぶことにしよう。  そしてこの分子磁石を作っている電子の運動が作り出す円形電流を 「分子電流」と呼ぶことにする。

 この分子磁石は普段は熱運動や化学結合の向きの関係でバラバラな方向を向いている。  しかし、もしこれらの向きを揃えることが出来れば強力な電磁石を作ることが出来るに違いない。  我々がよく目にする永久磁石(普通の磁石)の正体は、 ある程度向きの揃った分子磁石の集まりなのである。  永久磁石というのは言ってみれば「超伝導電磁石」みたいなものなのだ。


磁場を強める方法

 分子磁石の向きを揃えてやれば強力な磁石になると書いたが、 そのための手っ取り早い方法は外部から磁場をかけてやることである。  外部から比較的弱い磁場をかけてやるとその強さに比例して向きを変える分子磁石の数が増える。  分子磁石を味方につければ弱い磁場を元にして強い磁場を作ることが出来るのである。  コイルに鉄心を入れると磁力が強くなる理由はこれなのだ。

 例えば鉄くぎにエナメル線を巻いてコイルを作り、電流を流してやることを考えよう。  これは工作で電磁石を作るときによくやることである。  この状況はすでに導いた磁場の微分法則を使って次のように表すことが出来る。

 ここで はコイルに流した電流の密度であり、 は分子電流の密度である。  分子電流の密度ベクトル はバラバラな方向を向いていて ほとんどが打ち消し合っているかも知れないが、 それらをベクトル的に総和してやれば幾分かは残る成分があるだろう。  磁場を強めるために働いている実質部分はそれである。  これを「磁化電流」と呼ぶ。  つまり、自作の電磁石を使って発生させることの出来る磁束密度は、 コイルに流した電流と物質内部を流れる磁化電流の和で決まるということである。  ここまでは大変納得のいく話だと思う。


磁場の強さ H の導入

 ところが分子電流の和である磁化電流などというのはなかなか測定するわけにも行かないので、 このままでは扱いにくい量である。  そこでちょっとした式の変形を行って測定に都合のいい物理量に仕立て上げてやるのである。

 「磁化ベクトル 」というものを導入して、 磁束密度についての微分法則と同じように次のような関係が成り立っているものとする。

 この は物質内部にある磁化電流が発生させている磁束密度を表していると考えればよい。  この関係を使えば先ほどの式は、

すなわち、

と書けて、式の中から磁化電流という測定困難な概念を消してやることが出来る。  さらに、

となるような量を「磁場の強さ」として定義してやれば、上の式ははるかに簡単になって

と書いてやることが出来る。


補足解説・・・磁化ベクトル

 上の説明はとてもすっきりしていて気に入っているのだが、少し難点がある。  それは、全体の磁束密度 の内、分子電流のみが作る磁束密度のことを 磁化ベクトルだとしている解釈があまり正確ではないことである。

 この解釈をそのまま受け入れてしまうと物質の外部にも磁化ベクトルがあることになってしまうが、 実は物質外部では である。  なぜなら磁化ベクトルの本来の定義は 「物質が磁化したときに物質が持つ磁気モーメントの単位体積あたりの平均」とされているからである。  何やら面倒だが、要するに物質中に微小な棒磁石が存在しているかのように想像して、 その向きと強さをベクトルで表したようなイメージである。

  という式は物質内部でだけ成り立っており、 それが成り立つことについても本当は厳密に検討して証明した上で使うべきなのである。  よって、この式を磁化ベクトルの定義だと考えてはならない。


BH の関係

  の間には近似的ではあるが単純な関係がある。  先ほどの磁場の強さの定義式を変形してやると、

と書ける。  ところで磁化ベクトル の間には近似的に次のような関係が成り立つ。

 これはいかにもそうなるような気がするだろう。   は外部の電流に比例する量であるので、 結局この式は外部の電流に比例して物質の磁化の量が決まるということを表しているだけのことである。  その比例定数が であり「磁化率」と呼ばれている。  これを代入すれば、

となる。  ここで「透磁率」を

と定義すれば

と書ける。  真空の場合には であるので、 の関係が 厳密に成り立つことから、定数 は 「真空の透磁率」と呼ばれている。


本質はどちらか

 これで磁場の強さ の概念がいかに人為的に作り上げられたものかということが分かるであろう。  自然のままに単純な法則になったのではなく、単純な形になるように人間が作ったのである。

 しかしこれはこれで便利なものであって、 物質の有る無しに関わらず外部から流した電流密度によってのみ計算できる量になっている。  そして、そこに物質の有る場合、あるいは無い場合に実際に生じる磁束密度 を求めたければ、 上で求めた の関係式を使って計算してやればいいのである。  これは物質内部の分子電流を直接測定できなくても物質の持つ磁気的性質を 透磁率という数値を使って代表させることが出来るという素晴らしい工夫なのである。

 ん?  どこかで聞いた議論である。  これは前に説明した「電束密度」と同じ考えではないか。  すなわち、「磁場の強さ 」は「電束密度 」に対応するものであって、 私流に言えば「あまり本質ではない量」なのである。

 ただ歴史的には逆の過程を進んでいる。  電気の場合、先に電束密度の概念があって、後に詳しいことが分かって、 より本質的な「電場」に到達した。  磁気の場合には初めに自然な形で導入された「磁束密度」の方が本質であって、 電場との対称性から後に取り入れられた「磁場の強さ」の方が仮想的な概念であったのだ。

 形式的には電場に対応するのが磁場の強さであるが、意味合いを考えると 磁場の強さに対応するのは電束密度の方なのである。  形式を取るか、意味を取るかと聞かれれば、私は迷わず意味を取る。  このようなわけで私は今後も について「磁束密度」という 歴史的な呼び名を使うことをせずに、こちらを正式な「磁場」として扱おうと思うのである。  ただし、磁気モノポールが見つかった時にはもう一度少し考えさせて欲しい。


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