EMANの物理学 過去ログ No.9255 〜

 ● ジュール・トムソン膨張とエントロピー

  投稿者:Ikemo - 2010/05/09(Sun) 21:40  No.9255 
こんにちは。Ikemoと申します。(長文失礼します)
量子力学の議論が白熱しているところに失礼して,熱力学の質問をさせてください。

私はここ数日,不可逆過程について,このサイトを参考にしながらいろいろと考えていました。
例えば,「エントロピーは増大する」の記事
http://homepage2.nifty.com/eman/thermo/entropy.html
ではエントロピーが増加することを,断熱容器の中が熱い部分と冷たい部分に分かれいる場合で説明していますが,
ではそれに対して容器の中の圧力が大きい部分と小さい部分に分かれていたらどうなるのかとか,
「現象の進む方向」の記事
http://homepage2.nifty.com/eman/thermo/direction.html
では摩擦によりエントロピーがする話をしていますが,
その時 <tex>\D 'W = -p\D V</tex> という式をそのまま使ってもいいのはなぜだろうかとか。
(摩擦があるなら,摩擦力も仕事に絡んでこないのだろうか???)

そんなこんなでいろいろと悩んでいるのですが,ここで質問したいのは「ジュール・トムソン効果」の記事
http://homepage2.nifty.com/eman/thermo/jt_effect.html
のエントロピーについてです。
その記事中では,エンタルピーが

<tex>\D H = T\D S + V\D p</tex>

であることを使っています。
しかし,ジュール・トムソン膨張は不可逆過程だから,

<tex>\D 'Q \leq T\D S</tex>

より,

<tex>\D U &= \D 'Q + \D 'W \leq T\D S - p\D V \\\D H  &\leq  T\D S + V\D p</tex>

となってしまわないのでしょうか。
それとも,エンタルピー一定から

<tex>T\D S + V\D p = 0</tex>

より,

<tex> \left( \frac{ \partial S}{ \partial p} \right)  _{H}  = - \frac{V}{T} </tex>

となりますが,この式より圧力が下がればエントロピーが増加するので,
不等号なしでエントロピー増大が言えることになるのでしょうか。

  投稿者:yuya - 2010/05/10(Mon) 17:42  No.9273  <Home>
Ikemoさん、こんにちは。

私も同じことで悩んだことがあり、現時点で一応納得しているのですが、
説明に誤りがあればぜひ他の人にもご指摘いただきたいです。

この疑問は、Joule-Thomson効果のような高尚な(?)ものでなくても、
もっとずっと単純な設定でも同様に生じますので、まずは問題点をスッキリさせたいと思います。

2つの気体A、Bの温度をそれぞれ $T_A$ 、 $T_B$ (初めは $T_A > T_B$ )として、両者を(熱的に)接触させれば、
やがてAからBにじわじわと熱が移動して、両者の温度が等しくなって落ち着きます。

この過程で、AからBに渡る熱量 $Q$ は、 $\int T_B\D S_B$ あるいは $- \int T_A \D S_A$ で計算できます。
……って、あれ?高温から低温に熱が移るのは不可逆過程だから、
それはまずいんじゃないの?という疑問が生じます。

これでだいぶ考えやすくなるかと思いますが、
Ikemoさんのお考えはいかがですか。

  投稿者:Ikemo - 2010/05/11(Tue) 00:52  No.9277 
yuyaさん,回答ありがとうございます。

>2つの気体A、Bの温度をそれぞれ  $T_A$  、  $T_B$  (初めは  $T_A > T_B$  )として、両者を(熱的に)接触させれば、
>やがてAからBにじわじわと熱が移動して、両者の温度が等しくなって落ち着きます。

その場合,非常にゆっくりと熱が伝われば,
それぞれの気体内部に温度差は生じないと考えてよいのでしょうか。
もしそうなら,確かに

>この過程で、AからBに渡る熱量  $Q$  は、  $\int T_B\D S_B$  あるいは  $- \int T_A \D S_A$  で計算できます。

ということで間違ってはなさそうですね。
ここでエントロピーについて考えてみたんですが,

<tex>Q &= \int T_B\D S_B = -\int T_A \D S_A </tex>

<tex>\D 'Q &= T_B\D S_B = -T_A \D S_A </tex>

と,  $T_A > T_B$  より,

<tex>\D S_B + \D S_A = \frac{\D 'Q}{T_B} - \frac{\D 'Q}{T_A} > 0</tex>

となって,エントロピーは全体としては増大しますね。

以上のことから推測すると,
個々の気体だけを見た場合は不可逆過程ではなく,それぞれのエントロピーは等号で計算できるけれども,
全体で見た場合は不可逆過程だからエントロピー増大する,
ということでしょうか?
つまり,エントロピーと熱量が不等号の関係で結ばれるときは,
不可逆過程に関係しているすべての部分をまとめて考えた時ということですか?

もしそうなら,ジュール・トムソン膨張の場合は,
膨張する気体だけを見たら可逆過程であり,エンタルピーは等号で書けるが,
系全体としては不可逆過程なのでエントロピーは増大する,
という考えでよろしいでしょうか。

  投稿者:yuya - 2010/05/11(Tue) 09:37  No.9282  <Home>
Ikemoさん

はい、私もおおむねそのように理解しています。

>その場合,非常にゆっくりと熱が伝われば,
>それぞれの気体内部に温度差は生じないと考えてよいのでしょうか。

途中の各状態の温度とエントロピーが一意に定まる、ということにしておかなければ、
そもそも積分計算ができないわけですが、
本当にこう考えてよいかどうかは、実験結果と照らし合わせることになるのでしょうね。

>ここでエントロピーについて考えてみたんですが,
(中略)
>となって,エントロピーは全体としては増大しますね。

えぇ、そこを確認していただけたら一番分かりやすいかな、と思っていました。

>個々の気体だけを見た場合は不可逆過程ではなく,それぞれのエントロピーは等号で計算できるけれども,
>全体で見た場合は不可逆過程だからエントロピー増大する,
>ということでしょうか?
>つまり,エントロピーと熱量が不等号の関係で結ばれるときは,
>不可逆過程に関係しているすべての部分をまとめて考えた時ということですか?

一概にそう言えるかどうかは私には分からないのですが、少なくとも
「可逆過程を『組み合わせた』ものが不可逆過程になることは、何も珍しくない」
ということは言えると思います。

もしそうでないと、不可逆過程でエントロピーが増大していることを
具体的なエントロピー計算で確認することもできなくなるでしょうね。

  投稿者:のま - 2010/05/11(Tue) 09:59  No.9284  <Home>
>つまり,エントロピーと熱量が不等号の関係で結ばれるときは,
>不可逆過程に関係しているすべての部分をまとめて考えた時ということですか?

その考え方でよいと思いますよ。私は統計力学を学んで以来、熱力学の細かいことは忘れてしまいましたが、接触した2系は yuya さんがおっしゃるようにじわじわと内部熱平衡を維持しながら変化すると考えます。さもないと各瞬間の系の温度が定義できませんね。このとき、

<tex> dS_A = dQ / T_A </tex>

<tex> dS_A \geq dQ / T_B = -dS_B </tex>

という意味で等号と不等号を使います。 $A$ 系が内部熱平衡でなく  $T_A$ が各瞬間に定義できなくても、 $B$ 系が熱源など、"大きい系" と考えられる場合は、下の式の意味で不等号を使うというわけです。

非平衡系を扱う場合は細かく刻んだ熱平衡系の集合を考えます。このとき、

<tex> dS = \sum_i dS_i = \sum_i dQ_i / T_i \geq 0 </tex>

が第2法則の意味です。

  投稿者:Ikemo - 2010/05/11(Tue) 21:53  No.9295 
yuyaさん,のまさん,ありがとうございます。
おかげさまで,エントロピーについてのモヤモヤしたものに整理がつき,
ささやかな喜びを感じています(笑)
本当にありがとうございました!
またお世話になることがあるかもしれませんが,そのときもよろしくお願いします。