EMANの物理学 過去ログ No.5949 〜

 ● バリオンの分類問題

  投稿者:あもん - 2008/11/27(Thu) 00:38  No.5949 
ストレンジネスの話題がちょこっとあったので、以前、TOSHI さんにもお聞きした、「フレーバーSU(3)の 3x3x3 = 10+8+8+1 という分解で、残りの8重項と1重項のバリオンがどうなってるのか」という問題、考えていて解決したので、この場を借りて報告しておきます。

まあ、おそらくSU(6)の方法とそう変わらないんでしょうけど、先にフレーバーの組み合わせで3通りに場合わけして、それぞれの場合についてスピンの合成を行うというナイーブな方法で、バリオンを完全に分類できることに気がつきました。下はそのノートです。

http://kissho.xii.jp/1/src/1jyou56291.pdf

基本的にSU(2)の表現論だけであり、大学生でも理解できるレベルであったことに驚いています。手元の文献が Cheng-Li だけで、そこにはSU(3)しか書かれていなかったので、ちょっと盲点でした。(^^;

ちなみにメソン8重項がスピン0とスピン1についてそれぞれ独立にあることも、同じ方法で簡単にわかります。

  投稿者:TOSHI - 2008/11/27(Thu) 19:35  No.5963 
 どもTOSHIです。 

>あもんさん
>以前、TOSHI さんにもお聞きした、「フレーバーSU(3)の 3x3x3 = 10+8+8+1 という分解で、残りの8重項と1重項のバリオンがどうなってるのか」という問題、

 確かはっきりとはわからないという回答をしたような記憶があります。表記のホームページも見ましたが私のブログ「TOSHIの宇宙」の2007年7/25の記事「中性子の磁気モーメント」にはフレーバーSU(2)の2×2×2=2+2+4 ですが以下のように記載しています。短いので全文をのせました。

現在ではハドロンを構成するクォークのフレーバー自由度は2種類ずつ3世代あってアップ,ダウン;チャーム,ストレンジ;トップ,ボトムの6種類があるとされていますが,核子=「陽子 or 中性子」を記述するだけならアップ=uとダウン=dの2種類だけで十分で核力などを媒介する主要な粒子であるπ中間子をuとdあるいはこれらの反粒子の複合粒子として記述するには2次元特殊ユニタリ群SU(2),すなわち,アイソスピン(荷電スピン)群の表現を考えるだけで十分です。

 核子=「陽子 or 中性子」は,uとdの3体で構成されるバリオンであり,スピンが1/2のフェルミ粒子です。そして素電荷eを電荷の単位とすると,陽子は電荷が1であり,中性子は電荷が 0 であるということによって特徴付けられています。そして電荷をQ,アイソスピンをI,バリオン数をBとするとQ=I_3+B/2という等式が成立します。核子はそのアイソスピンIがI=1/2で,陽子はI_3=1/2,中性子はI_3=−1/2の固有状態になっています。

 ただし,ストレンジネスSまで入れるとQ=I_3+Y/2;Y≡S+BでYをハイパーチャージといいます。僕くらいの世代の学生時代なら卒業の頃に丁度チャームを与える(J/ψ)粒子が発見されたわけでその頃確実にわかっていたのはこの程度です。

 ちなみにスピンが 0 の擬スカラー粒子である(パリティ−の)π中間子はB=0,I=1であり,π+,π-,π0はそれぞれI_3=1,-1,0 の固有状態です。

 一般に各素粒子は特殊ユニタリ群の既約表現の1つ1つに対応していて超選択則により,崩壊現象を除いては異なる既約表現間の遷移は禁止されていると考えます。

 一方,クォークu,dのスピンは1/2で電荷Qはそれぞれ2/3,−1/3です。ということはB=1/3なのでQ=I3+B/2からu,dのアイソスピンはI=1/2で,それぞれはI3がI_3=1/2,−1/2の固有状態であるとしてよいことがわかります。

 SU(2)の2次元基本表現を表わすクォークを3体の複合粒子として合成した直積表現の既約表現への分解式は 2×2×2=2+2+4 となります。(ちなみにストレンジネスsまで含めたSU(3)だと 3×3×3=1+8+8+10となります。)

 まず,2体では 2×2=1+3となるのは自明ですね。つまりTij=T[i,j]+T{i,j};ただしT[i,j]≡1/2(Tij−Tji)(反対称=1),T{i,j}≡1/2(Tij+Tji)(対称=3)です。

 そして,2×2=1+3 からさらに2×2×2=(1+3)×2=2+(2+4)という既約分解を得ますが,まず,右辺の最初の2はアイソスピン 0 と 1/2を合成してアイソスピン 1/2をつくることに相当し,次の2はアイソスピン1と1/2を合成してアイソスピン1/2をつくること,右辺の最後の4はアイソスピン 1と 1/2を合成してアイソスピン3/2をつくることに相当しています。

 アイソスピン3/2はTijkを完全対称にすることで得られますからT[i,j,k]であり,このテンソルの成分の数はi,j,k=1,2の全ての組み合わせの数:つまり,2個から重複を許して3個を選ぶ組み合わせなので確かに4個あります。そしてこれは核子ではなくて,π-pあるいはπ-n共鳴であり質量がおよそ1230MeVのΔ粒子を表わしています。

 一方,2×2×2=2+(2+4)の右辺の最初の2はもちろんT[I,j]k,すなわち,(1/2)(T121−T211)と(1/2)(T122−T212)を表わしています。よって右辺の残りの2はT{I,j}K−T[I,j,k]で与えられます。これの 0 でない独立な成分は,(1/3)(2T112−T121−T211)と(1/3)(2T221−T212−T122)の2つです。

 そして,陽子pと中性子nはこの最後に示したI3=1/2,−1/2の既約表現に対応するとされています。これらはu,dでそのままu,dを示す状態の波動関数を表現すると規格化も含めて,p=(1/6)1/2(2uud−udu−duu),n=(1/6)1/2(2ddu−dud−udd)となります。

 ところで,こうした理論によるとアイソスピンとスピンが共に 3/2のΔ++ 粒子においてスピン成分がsz=+3/2の状態はΔ++↑=u↑u↑u↑となり,これはフレーバー自由度,スピン自由度について共に完全対称でハドロンのクォークによる複合粒子としての表現が軌道角運動量がゼロの基底状態=S状態で与えられるという仮定によればΔ++↑はクォークの交換に対して位置座標の交換をも含めて完全対称な状態関数で表現されることになりますが,これはフェルミ統計,つまり,多粒子系の状態はフェルミ粒子の交換に対して反対称であるべきである,という要請に矛盾します。

 そこで,実際の理論ではもう1つ別の自由度であるカラーというものを導入し,カラー自由度については1重項(無色)であること,つまりクォークのカラー自由度の交換について完全反対称の状態にある,としてこの矛盾を解消しています。

 そこで,今問題としているp=(1/6)1/2(2uud−udu−duu)とn=(1/6)1/2(2ddu−dud−udd)について考えると,これらは1番目と2番目のクォークの交換について対称ですがカラー自由度については完全反対称ですから,スピンの自由度についても1番目と2番目のクォークの交換について対称であることが要求されます。

 そこでスピン1/2に対する回転群:SU(2)の既約表現についても同じ変換性を持つ表現 |↑>=(1/6)1/2(2↑↑↓−↑↓↑−↓↑↑)と|↓>=(1/6)1/2(2↓↓↑−↓↑↓−↑↓↓)を採用して,陽子のスピンアップ状態(spin-up)として,p↑=(1/6)(2uud−udu−duu)(2↑↑↓−↑↓↑−↓↑↑) などと表現すればいいのではないかと推測されます。

 そこで,結局アイソスピンとスピンの両方を考慮したときに,クォークの交換に対して完全対称でなければならないことから,p↑=(1/18)1/2[uud(2↑↑↓−↑↓↑−↓↑↑)+cyclic]=(1/18)1/2[2u↑u↑d↓−u↑u↓d↑−u↓u↑d↑)+cyclic]と表現されるべきであることが結論されます。同様にn↑=(1/18)1/2[ddu(2↑↑↓−↑↓↑−↓↑↑)+cyclic]=(1/18)1/2[2d↑d↑u↓−d↑d↓u↑−d↓d↑u↑)+cyclic]です。

 これらはかつて流行したことのあるフレーバー・スピン対称性の群SU(6)の対称な 56重項既約表現に対応するものです。

 余談ですが,このSU(6)というのは,対称性の帰結として角運動量保存則が従う,実空間が等方的であるという性質,つまり現実の空間での回転群SU(2)〜SO(3)というスピン角運動量に関わる対称性と,フレーバーという内部空間,すなわちアイソスピンならアイソ空間=荷電空間における回転対称性のようなものであるSU(3)のフレーバー対称性を合成したものです。

 こうした実空間と仮想内部空間を混合した対称性というのは,非相対論で成り立つ近似的なもので,この混合対称性は相対論まで含めた4次元時空という実空間に対しては成立し得ない,ことが証明されています。ただし例外があって超対称性はこの限りではありません。(ワインバーグ著「場の量子論」第5巻参照)

 クォークは電子などのレプトンと同じく構造を持たない素粒子なので,その磁気回転比gをg=2で近似することができます。そこで,クォークで構成された複合粒子の磁気モーメント(磁気能率)をμとしてこれを用いて評価すると,そのz成分はμ=Σ_i{e_ih_c/(2M_ic)}(l_i+g*s_i)のz成分で与えられると考えられます。ここでe_i,M_i,l_i,s_i は,それぞれi番目の構成粒子の電荷,質量,軌道角運動量,スピンであり,h_cはプランク定数(h-cross;h_c≡h/(2π))で,cは光速です。

 そこでs_iz=(σi_3)/2と書き,M_d〜M_uとすると,(μ_z of |p↑>)={eh_c/(2M_uc)}(1/18)1/2[{(10/3)u↑u↑d↓+(1/3)u↑u↓d↑+(1/3)u↓u↑d↑}+{(10/3)u↑d↓u↑+(1/3)u↓d↑u↑+(1/3)u↑d↑u↓}+..]となります。

 したがって,普通に期待値として陽子の磁気モーメントμ_pz=<p↑|μ_z|p↑>を計算すれば,μ_pz={eh_c/(2M_uc)}×3×(1/18)×[(5/3)×4+(−1/3)+(−1/3)]=eh_c/(2M_uc)が得られます。同様に中性子ではμ_nz=<n↑|μ_z|n↑>={eh_c/(2M_uc)}×3×(1/18)×[(−4/3)×4+(2/3)+(2/3)]=(−2/3){eh_c/(2M_uc)}です。すなわち,理論的にはμ_n/μ_p〜(−2/3)という結果を得ます。

 ところで,実験によるとボーア磁子μ_B=eh_c/(2m_pc)を単位として,核子の磁気モーメントは,陽子がおよそ2.79で中性子が−1.91であることがわかっています。つまり,μ_p〜2.79μ_B,μ_n 〜−1.91μ_Bです。−μ_n/μ_p〜1.91/2.79 〜 2/3ですから,先の理論的考察は実験事実を正しく評価しています。

 普通,内部に電荷を持たない物体は角運動量があっても磁気モーメントはゼロですから,これは中性子がその電荷がゼロでも内部には電荷密度があるような構造を持つことを示しています。(以上)

 よかったら参照してください。


  投稿者:TOSHI - 2008/11/27(Thu) 20:00  No.5964 
PS:長くなったしあもんさんには釈迦に説法なので余計な内容もありますが要するに,2×2×2=2+(2+4)の(1/2)(T121−T211)と(1/2)(T122−T212)の2つでも残りの2はT{I,j}K−T[I,j,k]による(1/3)(2T112−T121−T211)と(1/3)(2T221−T212−T122)の2つのどちらをとっても,さらにスピンを含めたSU(4)対称性を考慮すると同じになるので結局独立なのは半分になるということでしょうね。
                         TOSHI

  投稿者:あもん - 2008/11/27(Thu) 22:36  No.5966 
TOSHIさん、コメントどうもです。明日じっくり検討させていただきます。まずは返答まで。(^^)

  投稿者:あもん - 2008/11/28(Fri) 12:25  No.5980 
記事ありがとうございます。おおよそ読みました。私もバリオンの分類ってそういう感じであろうと、なんとなく予想していたんですが、今回、もっと簡単なんじゃない、と気づいたということです。

バリオンの波動関数の表記をみればわかるように、バリオンは、カラーの足を消してみると、3個のボゾン系と等価だということ。ですからもしスピンを考えなければ uud, udu, duu などは区別されないということです。スピンを考えて初めて、

u(+)u(+)d(+), u(+)u(-)d(+), u(-)u(-)d(+),
u(+)u(+)d(-), u(+)u(-)d(-), u(-)u(-)d(-)

と区別されるわけですが、この場合、同じ種類のボゾンが2ついるために6個の状態しかないわけです。これがスピン4重項(3/2)とスピン2重項(1/2)に分岐するというわけです。結局、

1種フレーバーのバリオン → 4個の状態 → スピン3/2
2種フレーバーのバリオン → 6個の状態 → スピン3/2+スピン1/2
3種フレーバーのバリオン → 8個の状態 → スピン3/2+ スピン1/2×2

で完全に基底状態のバリオンが分類され尽してしまうということです。これは u,d,s,c,b,t 全てについて言えるはずなので。

唯一残るトリッキーな問題は、uds のような場合に、2つのスピン2重項がどのように分岐をするかですが、この場合は s が若干質量が重いので特別視できるということを使って、分岐が Σ^0 と Λ^0 に決まるでしょう。これはアイソスピンによる方法(アイソスピンを1つ下げる演算子を Σ^+ にかけて Σ^0 を得る方法)と結果同じことになりますが、実際に物理的な理由として正しいのは s の質量が若干重いからだと思います。

何が言いたいのかというと、フレーバーSU(3)によるハドロンの分類は、クォークの性質がまだよくわかっていなかったから、という歴史的なものであって、理論的にはあまり意味がないんじゃないか、ということね。アイソスピンにせよストレンジネスにせよ、弱い相互作用を無視したときこれらが保存することは、単純に「各フレーバーのクォーク数の保存」で済む話です。必要のない概念はできるだけそぎ落とさないと、将来の素粒子論屋はやっていけなくなることを危惧して、こんなことを考えているわけです。(余計なお世話かw)

ただし、定量的な話となると、例えばなぜπメソンがKメソンに比べて圧倒的に軽いのか(近似的カイラルフレーバーSU(3)の破れに関する南部=ゴールドストンボゾンだから)、π^0 → 2γ のチャネルの存在(カイラルアイソSU(2)由来のアノマリ)など、まったく必要性がないとは言えないわけですが、分類程度の話で、アイソスピンとかストレンジネスを持ち出す理由はないと考えたいわけです。今回、手を動かしてみたのはこんな動機なんです。