EMANの物理学 過去ログ No.5820 〜

 ● 正準集団(前編)

  投稿者:nomercy - 2008/11/16(Sun) 01:06  No.5820 
「よくある誤りについて」

私は最初に学んだときはまさにこの誤解をしてましたね・・
もちろん、導出を追えばすぐに分かるわけですが、
初学者にとってはややこしいですから、保留しておく。
そんな状態の所に
「ある温度 で平衡に達した系では、 全エネルギーが であるような状態の実現確率は に 比例する。  これをボルツマン分布と呼ぶ。」
などと書かれると、
この文章は一見ものすごく簡潔で分かりやすいので、
すぐに誤解してしまうんですよね。

  投稿者:EMAN - 2008/11/16(Sun) 08:35  No.5825 
 私も偉そうに書いてますけど、今回の記事を書き始めるまで、まさにこの誤解にはまってましたからねぇ。

 その誤解した方の説明をするつもりでいたのだけど、それができないと気付いて悔しくてああなったわけです。 日記に書いてあるのはこれのことでした。

 最初にこの説明を刷り込まれてしまうと、それを元に他の事を解釈しようとしてどうしようもなくなったりします。

  投稿者:Stromdorf - 2008/11/16(Sun) 16:25  No.5837  <Home>
 このあたりの「誤解」って結構微妙だと思います。

 実は、小正準集団でも正準集団でも、その根底の考え方は、「ガンマ空間を体積 h^-3N 乗の微小ブロックに分割したとき、考察している系がどのブロックに存在しているかを表わす確率分布が、何も情報を与えていなかった当初の等確率分布の状態から、“ある情報”を追加することによって、等確率ではない、ある重みつき確率分布に変化させたもの」という形になっているわけです。

 この“ある情報”というのが、小正準集団の場合であれば、「考察している系のエネルギーが E と E+dE の間にある」という情報であり、正準集団の場合であれば、「考察している系は、あるエネルギーが一定値を持つ巨大な系の(残りの部分と粒子の出入りが無い)一部分となっている」という情報であるということです。

 このような等確率というアプリオリ確率に、情報を追加して別の確率分布に変化させるというのは、確率論の世界では「条件付確率」を考えるということに他ならず、その条件付確率を求めるのに「情報エントロピー最大の原理」というものが用いられます。

 実は、統計力学におけるエントロピーというのも、この一般的な確率の議論における「情報エントロピー」と密接な関係があります。

 正準集団の確率分布における exp(-E/kt) という“重み”の導出も、この一般論が使えて、ラグランジュの未定係数法を使って導出できます。EMANさんの導出方法はこれとは違う方法によっていますが、正準集団の定義が同じものである以上、同じ結果が得られます。

  投稿者:phoebus - 2008/11/17(Mon) 00:58  No.5841 
横槍で申し訳ないのですが、「よくある誤り」は次のように解釈すれば全く誤りで無いと僕は思います。

ある2つのエネルギー固有状態 $i,j$ について、エネルギーが $E_i$ と $E_j$ とするとその出現確率の比は $\exp{\left(-\frac{E_i-E_j}{kT}\right)}$ で与えられる。
つまり、あるエネルギー固有状態 $i$ の出現確率は $\exp{\left(-\frac{E_i}{kT}\right)}$ に比例る。

我々はエネルギー固有状態に縮退 $\Omega (E_i,N,V)$ があることを知っているのでこの様に考えれば分配関数、すなわち規格化の計算は

<tex>Z(N,V,T)=\sum_{i(state)} e^{-\frac{E_i}{kT}}=\sum_{i(level)} \Omega (E_i,N,V)e^{-\frac{E_i}{kT}}</tex>

で与えられる。1つ目は"各状態についての和"であり2つ目は"各エネルギーレベルについての和"を意味します。

本文中の" ある温度 $T$ で平衡に達した系では、全エネルギーが $E$ であるような状態の実現確率は $e^{-{E}/{kT}}$ に比例する"において状態とは各エネルギー固有状態を言っていると考えれば何もおかしくないと思います。

文章がへたくそでごめんなさい・・・。

  投稿者:EMAN - 2008/11/17(Mon) 02:07  No.5842 
> このあたりの「誤解」って結構微妙だと思います。

 私もちょっと発表を早まったかなぁ、という気持ちはあります。
 どちらの導出法を採用しようかと迷ったりもしたのですが、とりあえず自分が理解できた方から書き始めて、書いているうちに、もう一つの導出法の意味が少しずつ見えてきた。 それで、発表は先延ばしにして全貌を理解した後の方が批判を避けれていいかな、という考えもよぎったのですが、一度発表してしまえば、放っておけなくなって焦ってどんどん先へ進めますから、やっちゃおう、って感じです。


> 実は、統計力学におけるエントロピーというのも、この一般的な確率の議論における「情報エントロピー」と密接な関係があります。

 ここに興味があります。 よく物性屋と情報工学屋が口げんかしているのを見かけましたし、教科書によっては、情報理論のエントロピーと統計力学のエントロピーは関係ないなどと書いてあるのを見かけますが、いや、すごく関係あるだろう、と思っていたところです。

 エントロピーを「ビット数」と読み替えれば、単にボルツマン定数の選び方の違いだけだし。(と考えている。) そこらへんははっきり説明しといてやろうと計画しています。

 なるほど、「条件付確率」と「情報エントロピー最大の原理」をキーワードに調べていけばもっと深く進めそうですね。 あのエントロピーのもう一つの定義式の直観的理解の仕方が分からなくて、どう料理しようかと眺めていたところです。

 あと、未定係数法を使わずにボルツマン分布の話へ自然に進む説明法はないだろうか、ということも考えています。

  投稿者:EMAN - 2008/11/17(Mon) 03:06  No.5843 
> 文章がへたくそでごめんなさい・・・。

 いえいえ、今回の記事で一番不安な点なので、つっこんでくれて助かります。 (私も本文中ではわざと煽るような書き方してますし、反論は覚悟の上、ってやつです。)

> 状態とは各エネルギー固有状態を言っていると考えれば何もおかしくないと思います。

 しかし、言われてみればそうだなぁ。
 書いているときはその辺りも考慮したつもりで、それでも許せん、って気持ちで書いていたけれども、もう少し表現を和らげた方が良さそうですね。 確かに、許せるわ。

 あした、もう一回考えてから変更をしてみます。

  投稿者:ASA - 2008/11/17(Mon) 08:33  No.5844 
横からですいません。

>> 状態とは各エネルギー固有状態を言っていると考えれば何もおかしくないと思います。

 古典論の枠組みで状態を語るなら、各エネルギー固有状態というのは考えられないわけで、"許せん"という気持ちなるのでは?
 量子統計を俯瞰しているからこそ許せるわけですよね。

 EMANさん流の統計論は、古典→量子という流れです(パラ、量子→古典という流れでない)。古典では許せなかったものが、量子になると実はこれこれという理由があって許せるのだという、逆転ストーリを期待してます。
 (読者を想定すれば、変更なしでOKと思ってます。)

  投稿者:phoebus - 2008/11/17(Mon) 12:14  No.5845 
>ASAさん

別に古典の枠組みで考えても以下のように考えれば許せると思います。

ある状態 $(q,p)$ があってそのエネルギーが $H(q,p)$ の時、その出現確率は $e^{-H(q,p)/kT}$ に比例する。このとき分配関数は

<tex>Q_{classical}=C\int\int_{classical\; phase\; space}dqdpe^{-H(q,p)/kT}</tex>

で与えられる。結局エネルギーレベルではなく、各状態について考えればよいのではないでしょうか?

>EMANさん

ASAさんのおっしゃるとおり、僕は量子統計→古典統計の順で勉強した口なので古典→量子の流れは新鮮でした。(量子→古典の流れのほうが一般的?)
しかし、正準集団(前編)には(少なくとも僕の目には)アンサンブルの概念がなかったように見えました。もし、後編でその話があるのでしたら余計なお世話ですが・・・。

  投稿者:ASA - 2008/11/17(Mon) 13:40  No.5846 
phoebus さん

なんか、EMANさんの問題意識からずれているような。
http://homepage2.nifty.com/eman/statistic/canonical1.html
(9)式で微視的状態で足し合わせることを述べているわけですし。

状態に対する解釈の違いなの?


>ある温度Tで平衡に達した系で、全エネルギーがEであるような状態
 単に状態数密度Ωが抜けてるよという問題とみました。
 E+dEの狭い領域に見出す確率としては、
 P(E)=CΩ(E)exp(-βE)が正しくて
 P(E)=Cexp(-βE)は間違い。

 エネルギーErをもつ1つのある決まった状態rに見出す確率は、
 Pr=Cexp(-βEr)

 EMANさんの注意点は、変な教科書の説明だと、両者を良く切り分けてないので注意しましょうということだと思いました。(まともな教科書なら、きちんと峻別してますが)

  投稿者:EMAN - 2008/11/17(Mon) 14:06  No.5847 
> しかし、正準集団(前編)には(少なくとも僕の目には)アンサンブルの概念がなかったように見えました。もし、後編でその話があるのでしたら余計なお世話ですが・・・。

 この指摘はごもっともですね。 耳が痛い。
 先にボルツマン分布の話を持ってきた方が良かったかなぁ。
 しかしそれも重い気がして・・・。

 3つの方法が出揃った後で、実はこうなんです、って感じにそれぞれの関係を説明するつもりではいましたが、それをやるならボルツマン分布と関係ないと言うようなことはやめて、ちょっと注意を払うように指摘するだけの方がいいですよね。(先のことはそれほど具体的には考えてなかった。)


> EMANさんの注意点は、変な教科書の説明だと、両者を良く切り分けてないので注意しましょうということだと思いました。

 まぁそうなんですけど、逆に大きくぶれてしまっては、私の方こそ変な教科書になってしまいますから、少し修正します。 ASAさんのような擁護意見も聞けたので勇気も萎えずに済んでます。

  投稿者:nomercy - 2008/11/17(Mon) 23:22  No.5853 
>よく物性屋と情報工学屋が口げんかしているのを見かけましたし

そんなことあるのか(笑
統計力学のエントロピーは情報エントロピーの形と同じに書けますから、同じと言っても良いですよね。
その形に表現していることを強調するときは「情報エントロピーの形に表す」と言ったりしますし。

フーリエ変換や解析接続で最大エントロピー法なんかもよく使われますし、情報エントロピーの概念も重要ですよね。

  投稿者:EMAN - 2008/11/18(Tue) 00:30  No.5856 
> >よく物性屋と情報工学屋が口げんかしているのを見かけましたし
> そんなことあるのか(笑

 そういえば・・・。
 さすがに、最近は見かけませんね。
 互いの理解が進んだのかな。

 まだネットが専門家とパソコンマニアのものだった時代の話です。 もう昔ですね。 色んなことについて、素人も専門家も入り混じって、今より活発にあちこちで議論が行われていたもんです。 通信できること自体が物珍しかったですから。 ルールもなにもまだなくて。

 で、誰かの発したエントロピーについての疑問に、2種類の専門家と思しき人物が全く異なる説明を始めるところから発展して・・・なんていうのが典型的なパターンでしたね。
 今思えば、二人とも素人だったのかも知れませんが、いや、どっかの研究者を名乗ってた人もいたな、最初は真面目でまともな議論に見えた。 分野が違うと、こうも理解し合えないのかと思ったもんです。

  投稿者:EMAN - 2008/11/18(Tue) 00:38  No.5857 
 あ、そうだ、修正はまだやってません。
 もうしばらくお待ちください。
 今日はちょっと別のことでがっくし来てたんで、手が回りませんでした。

  投稿者:phoebus - 2008/11/18(Tue) 00:48  No.5858 
>ASAさん
>>EMANさんの注意点は、変な教科書の説明だと、両者を良く切り分けてないので注意しましょうということだと思いました。

そういうことならOKです。ようはある固有状態 $i$ の出現確率は $Ce^{-E_i/kT}$ でエネルギーが $E$ の状態の出現確率は $C\Omega(N,V,E)e^{-E/kT}$ ということです。お騒がせしました。

>EMANさん
疑問を投げかけてあれなんですが、趣味としてやっているのでゆっくりやってください。
くれぐれもBoltzmannさんみたいに思いつめないでくださいね(笑)

  投稿者:EMAN - 2008/11/18(Tue) 09:17  No.5865 
> くれぐれもBoltzmannさんみたいに思いつめないでくださいね(笑)

 (笑) ああ、大丈夫、一晩寝たらすっきりしましたよ。
 趣味に思うように時間が取れない状況で、単純な計算ミスで何時間も時間を失うと嫌になりますね。 仕事環境を整えたいのだけど、翻弄されてまして、今しばらくはこっちの思うように動けないという、ちょっとした閉塞感。

 あと、後編を書いていて困難にぶち当たったので、結局、前編に大きく手を加える必要が出てきました。 毒気が抜けるのが少し淋しいけれど仕方ない。 ああ、いや、後編の変更だけで乗り切れるかな? とにかくチャレンジします。

  投稿者:hirota - 2008/11/18(Tue) 11:56  No.5866 
「E/T 個の玉が同時に箱に入る確率」とか説明してるのもありましたっけねー。(ホントにこうだったかな?)
どこで聞いたんだか。

  投稿者:EMAN - 2008/11/18(Tue) 12:17  No.5867 
 統計力学は、ほんと、説明のバリエーションが多いですね。
 一度分かっちゃえば、なるほどー、と言えるのですけど、
全体像をつかむまでは混乱させられる一方でした。

 あ、今、記事を修正しました。
 これで無駄に敵を増やさなくて済みそうです。

  投稿者:nomercy - 2008/11/18(Tue) 13:07  No.5868 
> しかし、正準集団(前編)には(少なくとも僕の目には)アンサンブルの概念がなかったように見えました。もし、後編でその話があるのでしたら余計なお世話ですが・・・。

最初はアンサンブルの概念ってほとんど気にしないですよね。
少し進んだ議論になると、アンサンブルの概念を考えることで理論がすっきりすることがあって、私は何度か助けられたことがあります。それ以来、アンサンブル至上主義です(笑
例としては

・小正準集団を用いてフェルミ分布を導出する
……フェルミ粒子は縮退が無く状態数が少ないのに、スターリングの公式を使うとは何事か?
・線形応答理論
……何故時間発展が運動方程式から一意に決まるのか?

といったことを当時は疑問に思ってました。この二つともアンサンブルの概念によって私は自然に理解できました。