EMANの物理学 過去ログ No.5783 〜

 ● log (dE/E) について

  投稿者:Stromdorf - 2008/11/14(Fri) 12:41  No.5783 
 EMANさんが最近追加した統計力学の記事の中で、小正準集団での理想気体のエントロピーを計算する際に、k log(dE/E) がほとんど無視できる件について

>これについての私の態度はと言うと、まだ先のことは詳しく理解していないのではっきりとは言えないが、古典論の限界なのではないかと考えている。 >本来、量子論を適用して状態の数をもう少し丁寧に数えなければいけないところを大雑把に見積もって議論しているからこんなことになるのだろう。

と述べておられますが、まさにそのとおりですね。
 量子統計ではガンマ空間の刻みがプランク定数のオーダーなので、エネルギーの差 dE についても同様で、h はMKSで 10^-34 のオーダーですから、dE/E の常用対数は -34 くらいのオーダーで、従って自然対数 log(dE/E) もマイナス数十〜百のオーダーで、これに 10^-23 のオーダーを持つ k を乗じれば、ほとんどゼロですよね。

P.S. ところで、普段から具体的な数値を入れない変数だけで書かれた数式ばかりいじっていると、粒子数 N だけでなく、その対数 log N も( N→∞ のとき log N → ∞ という頭があるので)何だか巨大な数値のような気がしてしまうものですが、実は log N って普通の大きさの数値なんですよね。

  投稿者:nomercy - 2008/11/15(Sat) 07:42  No.5797 
Stromdorfさん

量子統計でガンマ空間って考える必要はあるんですか?
というかそもそも定義できるのでしょうか?


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EMANさんの統計力学を楽しく拝見させてもらっています。
統計力学の導入部ってやたらと難しいですよね。
log(dE/E)とか。
まあ、その辺はやってる内にどうでもよくなっていくわけですが(笑

  投稿者:EMAN - 2008/11/15(Sat) 12:24  No.5801 
 Stromdorfさん、お久しぶりです。

 私の気になっていた部分を確認して頂いて、ほっと一安心です。

 私も具体的な数値を入れないで考えていることが多いので、
同じような感覚にとらわれてました。
 気をつけないといけませんね。


> EMANさんの統計力学を楽しく拝見させてもらっています。
> 統計力学の導入部ってやたらと難しいですよね。

 nomercyさん、ありがとうございます。
 そうなんですよ。
 今朝も今書いている原稿の不備に気づいて書き直ししたところです。
 そろそろ発表しても良さそうかな。
 今回もやはり不安なところがあるのですが。

  投稿者:Stromdorf - 2008/11/15(Sat) 20:12  No.5810  <Home>
nomercyさん

> 量子統計でガンマ空間って考える必要はあるんですか?
> というかそもそも定義できるのでしょうか?

 これは、いわゆるWigner変換という手法があって、量子統計における演算子 A^ の密度演算子 ρ^ による統計平均 tr(ρ^ A^) が、A^ と ρ^ それぞれのWigner変換とよばれる ガンマ空間上の関数 Aw(p,q) と ρw(p,q) によって

tr(ρ^ A^) = (1/N!) h^(-3N) ∫ρw(p,q)Aw(p,q)dpdq

という通常の古典統計のような積分で表示でき、しかもGibbsのパラドクスを防ぐような 1/N! の因子を持っているということが成り立ちます。

 Wigner変換について解説された本がどの程度あるかあまり知りませんが、“From Microphisycs to Macrophysics”という本に概要が書かれています。
 ちなみに私のページでも解説しておきました。

  投稿者:Stromdorf - 2008/11/15(Sat) 21:04  No.5814  <Home>
EMANさん

> 私も具体的な数値を入れないで考えていることが多いので、
>同じような感覚にとらわれてました。
> 気をつけないといけませんね。

 私もえらそうに書き込みましたが、最初はこの事実に気付きませんでした。
 しかし、例えば前回の書き込みでのWigner変換の式:

tr(ρ^ A^) = (1/N!) h^(-3N) ∫ρw(p,q)Aw(p,q)dpdq

を導くにあたって (1/N!) の因子が掛かることの“From Microphysics to Macrophysics”における解説では、私の誤読でなければ、その解説を正しいとすると、プランク定数 h と粒子数 N に対して h N! ≒ 0 となることになってしまうのですが、実際の数値を代入してみるとオカシイことにあるとき気が付きました。

 なぜなら N! ≒ (N/e)^N は 10^23 の 10^23 乗のオーダー、すなわち 1 の後に 0 が 23×10^23 個並ぶ数値(!)であり、これに高々 10 の -34 乗のオーダーである h を乗じても、まさに“焼け石に水”で、“0 に近い”どころか“ほとんど無限大”ではありませんか!

 結局、これは h^3 × N^2 が 0 に近いことを利用する正しい証明に修正することができることに気が付いて一件落着しました。これは h に実際のプランク定数の具体的数値を、N にアボガドロ定数の具体的な数値を代入すれば、確かに 0 に近いのですが、この証明を見つけたとき、h や N の実際の数値のオーダーの絶妙さに敬服したものです。

  投稿者:nomercy - 2008/11/16(Sun) 00:02  No.5819 
Stromdorfさん、返信ありがとうございます。

ガンマ空間の定義については分かりました。
本題のdE/Eですが、dEは任意に選べる量ですよね。
小さければ小さいほど理論の精度が良いというようなものだと思いますが、
理想的にdE→0とすると log(dE/E) が無視できないような状況にもなり得ますよね。
逆に言うと、log(dE/E)の項が無視できるようなdEの値を選ばなければいけない。つまり、常に log(dE/E) の項が無視できるわけではなくて、エネルギー分解能をそこそこにしておかないと(粗視化しておかないと)統計力学にならない、というように私はこの問題を理解してました。

  投稿者:ASA - 2008/11/16(Sun) 08:05  No.5824 
nomercyさん

Stromdorfさんも述べておられますが、

量子論的にエネルギーは、離散的で
dEは、hωとステップ的に与えられ、
トータルのEが,N(<n>hωで)与えられるとすると、N:数,<n>;準位平均

dE/E=h/N<n>

なので、身の周りのスケールの現象で、プランク定数とアボガドロ数と平均エネルギーの関係から、たまたま、うまく成立しているということだと思います。

 粒子数が宇宙規模やとんでもない高エネルギーレベルになると、成立しないでしょう。

なので粗視化とは、ちょっと違うような気がします。

  投稿者:Stromdorf - 2008/11/16(Sun) 09:02  No.5826  <Home>
nomercyさん

>ガンマ空間の定義については分かりました。
>本題のdE/Eですが、dEは任意に選べる量ですよね。
>小さければ小さいほど理論の精度が良いというようなものだと思いますが、
>理想的にdE→0とすると log(dE/E) が無視できないような状況にもなり得ますよね。

 EMANさんが「エントロピーの正体」のところで

> いや、もうごまかし切れないからここで今のうちに話しておいた方が良いだろう。 実のところ、自然はニュートン力学が考えるような連続的なものではなく、ガンマ空間のごく狭い一定範囲内にある二点を別の状態だと区別できないのである。 それで位置と運動量の不確定性関係に出てくるプランク定数がここで登場するというわけだ。 つまり微視的状態の数は、実際は数えられるのである。

と書いておられるように、量子統計では、h 未満の違いを持つ状態は互いに区別が付きません。この“解釈”は、Wigner変換で見るとわかりやすいと思います。
 すなわち、Wigner変換の式には h^-3N が掛かっていますが、これはガンマ空間の積分を、体積 h^3N の微小ブロックに分割すると、丁度

tr(ρ^ A^) = (1/N!) h^(-3N) ∫ρw(p,q)Aw(p,q)dpdq

     = (1/N!) Σ ρi Ai

という和の形に書け、しかもこの和の個数は量子統計における固有状態の個数に対応しているわけです。

 ところで「小正準集団」の考え方というのは、ガンマ空間において、エネルギーが E の超平面とエネルギーが E+dE の超平面の両者に挟まれる“薄皮”の部分のみに状態が存在し、しかもその“薄皮”の中では等確率である、というわけです。
 ところが上で説明したように、ガンマ空間を「体積 h^3N の微小ブロック」に分割し、それ以上細かい分割はできない(=統計を考える際に意味が無い)のですから、この“薄皮”をこのブロックより小さく取ることは意味がありません。
 ところでガンマ空間は6N次元ですから、この微小ブロックの“直径”は、体積の6N乗根つまり“ルート h”のオーダーであり、E=pq/t という次元を持つことを考えると、“薄皮”の厚さである E の刻みは1次元の p と q の積の最小刻みを t で割ったもの、つまり h のオーダーを時間(=周期運動の場合はその周期、つまり角周波数 ω の逆数)のオーダーで割ったものより小さくは取れない(取っても統計力学的に意味が無い)ということになると思います。



  投稿者:nomercy - 2008/11/16(Sun) 09:15  No.5830 
ASAさん

系の性質と E,dE って関係ないのではないですか?
つまり、E,dE って変数であって、
任意の値をとり得るのでは?
そのような E,dE に対して、
状態数 W(E)dE は系の性質を反映しますけれども。

  投稿者:nomercy - 2008/11/16(Sun) 09:24  No.5831 
Stromdorfさん


Wigner変換の説明ありがとうございます。

そもそもの疑問として、
Wigner変換を持ち出さなければならないのか?
ということを思っています。
情報として、系のエネルギー固有値のスペクトルが与えられただけではダメなのか、と。

これに関連して、常にウィグナー表示が定義できるのか?というのも疑問に感じています。例えばスピン系とか。

  投稿者:ASA - 2008/11/16(Sun) 09:39  No.5832 
nomercyさん

 古典統計の範囲ではそうなのですけど、量子統計による帰結を先取りした論理展開をしてます。

Stromdorf さんが補足されているように、
>“薄皮”の厚さである E の刻みは1次元の p と q の積の最小刻みを t で割ったもの、つまり h のオーダーを時間(=周期運動の場合はその周期、つまり角周波数 ω の逆数)のオーダーで割ったものより小さくは取れない(取っても統計力学的に意味が無い)ということになると思います。
つまり、dE=hωで、
量子的に働いているミクロな力の定数によってωが決まるので、それより小さいものを考えるのは物理的に意味無いわけです。

 積分で表現していて直接古典と対比できる形式でも、離散的性質による制約が現れる(純粋に古典的ではないということ)。

  投稿者:nomercy - 2008/11/16(Sun) 10:18  No.5833 
ASAさん、Stromdorfさん

途中の説明には幾つか疑問がありますが、
結局、dE の下限は統計力学に意味を持たせるという要請から決まるということですよね。
また逆に、それよりも dE が小さくなると統計力学としての意味を失う。
そういうことであれば、私の最初の考えと同じなので納得です。

  投稿者:Stromdorf - 2008/11/16(Sun) 15:22  No.5836  <Home>
nomercyさん

ASAさんへのレスへの横レスですが、

>系の性質と E,dE って関係ないのではないですか?
>つまり、E,dE って変数であって、
>任意の値をとり得るのでは?

 そもそもEMANさんの解説で log(dE/E) の計算が出てきた一連の議論を思い出してください。
 ガンマ空間の積分表示から出発していたでしょう?
 つまり、エントロピーの計算に log(dE/E) が出てくるのは、物理量の統計平均の計算にガンマ空間の積分が使える場合に限るのであって、これは量子統計が古典近似できる場合に限られます。
 ですから、スピン系のような古典近似がそもそも不可能な系の場合は、エントロピーの計算にガンマ空間の計算を用いることができず、従ってエントロピーの計算に log(dE/E) が出てくることもないので、その場合には dE の大きさの限界云々の話はエントロピーの話と全く関係ないわけですね。

  投稿者:nomercy - 2008/11/17(Mon) 23:16  No.5851 
Stromdorfさん

>従ってエントロピーの計算に log(dE/E) が出てくることもないので

というのは、離散スペクトルの場合には dE を導入しなくても状態数が定義できる、という話ですか?

確かに状態数W(E)は定義できますが、エネルギー固有値をE_i、その縮重度をN_iとして
<tex> W(E)  =  \begin{cases}   N_i & (E=E_i)   \\   0 & (E\ne E_i)  \end{cases}</tex>
という特異な関数になってマズいということはありませんか?
適当な方法で準位をならして、エントロピーが滑らかな関数になれば問題ないですが、これが結局、dEと対応するのかと思っています。


実際の問題ではそんなこと考えなくても計算できるわけですけど。