EMANの物理学 過去ログ No.4114 〜

 ● 断熱変化

  投稿者:Stromdorf - 2008/06/08(Sun) 08:12  No.4114 
 熱力学の展開にはいろんな流儀があるので、以下に述べるのは、あくまでその内の一つということで理解してください。

 まず「断熱変化」の定義ですが、これを「(局所的にも)熱量の出入りが無い変化」のように捉えるのは、直感的ではありますが、では「熱量」とは何か、という別のツッコミを受けてしまいます。
 そこで、「断熱変化」の定義は「熱量」という概念を使わずに、「その系に対して、外部から力学的な影響以外には何ら影響を与えないで変化させること」と定義します。
 この定義のもとで、熱力学の第一法則を

(1) 任意の系には「内部エネルギー」とよばれる(加法的な)状態量 U が存在する。

という形で導入します。このとき、内部エネルギー U を力学的パラメター x の関数として表わしたとき、任意の(微小)断熱変化に対して dU = X dx が成り立つことがわかります。ただし X ≡ ∂U/∂x は「x に共役な力」です。例えば x が気体の体積 V の場合は、それに共役な力 X は圧力 P の符号を変えたものです。
 力学的パラメターが複数ある場合も同様で、その場合は、断熱変化に対して dU = Σ X_i dx_i が成り立ちます。

 次に断熱変化とは限らない一般の変化を考えたとき、内部エネルギー U の変化量は、外部から与えた仕事量 d'W ≡ Σ X_i dx_i とは必ずしも一致するとは限らないので、その差のことを、その系に流入する「熱量」とよんで d'Q と書きます。すなわち d'Q ≡ dU - d'W がその定義です。

 以上のように、まず「断熱変化」という概念の定義があり、その定義のもとで内部エネルギーなる状態量の存在を主張する第1法則の提示があり、それらの概念を用いて熱量の定義がなされるわけです。
 以上の定義によれば、「断熱変化なら d'Q = 0 である」というのは定義から自明ですが、その逆は必ずしも主張できないのは当たり前ということになりますね。

 次に第2法則についてですが、これを、まずクラウジウスの原理からカルノーの定理を経てエントロピーなる概念の存在を示す…という方法は、標準的ではありますが、実はその演繹のプロセスでずいぶん色々な「暗黙の仮定」を使っていることが(例えば田崎先生の本を読むと)わかります。ですから、ここは趣味の問題ですが、天下り式にエントロピーの存在を仮定して、第2法則を

(2) 任意の系には「エントロピー」という(加法的な)状態量 S が存在して、任意の断熱仮定に対して非減少である。

という形で導入してしまうのがわかりやすいと思っています。
 そして、「温度」という概念も、このエントロピーを使って定義するわけです。
 実際、まず「任意の系について、力学的変数を固定した状態において、それ以上断熱的には変化できない状態というものがただ一つ存在する」と仮定することにして、そのような状態のことを「平衡状態」と定義します。この定義のもとで、今までに導入した概念のみから「平衡状態からの任意の微小変化に対して d'Q と dS は比例する」という定理が証明できるので、その比例定数のことを、この平衡状態の「温度」とよんで T と書きます。すなわち d'Q = T dS で温度を定義するわけです。

 それではエントロピーそれ自体の定義はどうなるんだ、エントロピーのような非自明な概念を天下り的に最初から仮定するなんて付いていけない、と思うかもしれませんが、逆にエントロピーなる状態量の存在を仮定すると、ここから演繹的にクラウジウスの原理が「証明」できるので、これはあたかも電磁気学においてクーロン/ビオサバールの法則からマクスウェル方程式という「自明でない」結論を導く論法を採用するか、逆にマクスウェル方程式を天下り的に仮定してクーロン/ビオサバールの法則を含むすべての電磁現象を導く論法を取るかという趣味の問題に過ぎないと考えます。
 それでもどうしても「エトロピーを天下りに導入するのはケシカラン」と思うなら、それこそ「統計力学」によってエントロピーの存在を力学的・確率論的に証明してやればよい。あまり研究史の順序にこだわる必要はないのではないか、というのが私の意見です。

  投稿者:ASA - 2008/06/08(Sun) 09:45  No.4115 
>その系に流入する「熱量」とよんで d'Q と書きます。すなわち d'Q ≡ dU - d'W がその定義です。
その定義を採用するとすると、以前の見解"流入熱量は直接計測することが出来るとした"(symさんへの回答)と矛盾しますよ。実際に熱流計も存在しますし。

 熱平衡状態は一般的状態でないので、一般的にエントロピー自体が定義できなかったり、「統計力学」的なエントロピーなるものが物理量と対応しなかったりして問題が多いわけです。
(力とかエネルギーなどは、かなり一般性があります。)

 別スレで述べましたが、マクロな非平衡状態は流体方程式群で記述できます。その中にエントロピーは、直接出てきませんので、エントロピーを天下り的な主要変数とする必然性を感じないのですよね。