EMANの物理学 過去ログ No.3936 〜

 ● 熱力学雑感

  投稿者:murak - 2008/05/18(Sun) 05:01  No.3936 
平衡状態の定義として、「系の状態を指定する(全ての)マクロなパラメータの値がもうこれ以上変化できなくなるような(終局的)状態」のような表現がされる事があるが、これには明記する事がしばしば忘れられる或る前提条件が存在している。それは(その系を)「孤立させて放置したとき」と云うものである。孤立していない系では、マクロなパラメータが時間的に変化しなくなっても、系に(熱を含めた)エネルギーや物質の流れが存在していることがある。このような状態は「定常状態」と呼ばれ、普通は平衡状態と区別する。系を孤立させる方法としては、例えばその全体を断熱的で物質や力も伝えない壁で囲むことが考えられるが、その方法はともかく、その系とそれ以外の間で熱や圧力、物質などが交換されないことが本質的である。

「孤立」という条件は、また、系に何等かの構造があって、平衡状態におけるマクロ変数の値が均一にならないような系(複合系)を考察する場合にも有用である。熱力学の例題としてよく出てくる、内部に様々なタイプの仕切り(断熱壁・不動壁・半透膜等)がある状況で平衡している系を考えよう。このような系では、温度や圧力といった示強量が必ずしも系全体で一様にならないまま終局的状況(すなわち平衡)を迎える。そのような状況において、その系における壁で囲まれたある一部を取り出し、その壁を(あらゆる量を伝えない)完全な壁で置き換えて孤立させて放置したとしても、その部分の状態を示すパラメータはもう変化しないであろうし、更にその後壁を再び元のタイプのものに置き換えたとしても、系全体に新たな変化は訪れないであろう。この意味で、その系は(系全体が均一な温度になっていなくても)平衡状態にあると考えるべきである。つまり、(熱)平衡状態においては温度が均一であるべしというという条件は、系の内部に一切の壁(=拘束条件)の無い単純系における話であって、内部拘束条件を持つ複合系においては必ずしも当てはまらない。そして、熱力学的に意味があり、しかも重要な現象は、このような複合系における拘束条件(=壁)の一部、あるいは全部を取り払った場合に、系全体がどのような(新たな)平衡状態に推移するかという問題としてしばしば現れる。

ここでみた、複合系における平衡状態(あるいは内部拘束条件の下での平衡状態)は、しかし、系の各部分に状態量が定義できて、各部分部分ついては局所的・瞬時的な平衡が成立していると考えられる、局所平衡とはまた別である。局所平衡系は、その部分部分について、局所的・瞬時的に(平衡系の)熱力学が適用できるような系であって、従って各部分部分のエントロピー及びその総和としての系の全エントロピーが定義できる。この文脈で云うなら、複合系の平衡状態とは、与えられた内部拘束条件を満たすような局所平衡状態の中で、(系全体として)最大エントロピーを与えるようなものであると云うことができる。この意味でも、複合系の平衡状態という概念には熱力学的な意味がちゃんとあるのである。

一方、一般に局所平衡系というものを考える際、そこには(複合系の場合とは違って)必ずしも内部拘束条件が固定的に存在しているわけではない。また上の分析からわかるように、それは似たような状態の中での(系全体としての)最大エントロピーを与えるものでもない(つまり系全体としては平衡状態にはなっていない)。従って、その状態は一般には静的なものではなく、変化する可能性を持っている。このような局所平衡系の動的側面を扱う一つの典型が、流体力学である。ちなみに、系の一部を加熱し、また別の一部を冷却することを固定的に続けると、系の中に熱あるいは物質の流れが生じ、その流れがある状態で、系の状態変数が時間変化しなくなる(変化が見えなくなる)ことがあり、これが「定常状態」の一つの典型を与える。


(まだ続くが、時間の都合でまた後日)

  投稿者:murak - 2008/05/19(Mon) 06:21  No.3941 
話を少し戻して、平衡状態にある複合系の内部拘束条件を(部分的に)開放する事による、平衡状態の推移について考えよう。

複合系の平衡状態についても、単純系の場合と同様に、それを各部分系に関する状態変数をパラメータとした或る熱力学的な状態空間(熱力学的配位空間)の点として表現できるが、この状態空間は系全体としての平衡状態のみならず、局所平衡にあるもののの、全体としては非平衡であるような状態をも表現する能力を持っている。(とはいえ、局所的にも幾つかの状態変数が定義できないような(あるいは系の状態を指定するのにもっと多くの変数を必要とするような)強い意味での非平衡状態は、この状態空間の上に表現することは出来ない事に注意しておこう。その辺りの事情も単純系の場合と同様である。)

系の拘束を(一部)取り除いた瞬間の状態は、先に述べた局所平衡状態にはなっているが、系全体としては新たな拘束条件の下での平衡状態ではないと考えられるので、状態の推移が始まる。このとき一般には、局所的な意味においても平衡でないような強い意味での非平衡状態を経由して、新たな状態へと推移してゆくと考えられるが、拘束(壁)の取り除き方を工夫する事で系の変化を非常にゆっくり(つまり準静的)にして、系の状態推移が(近似的に)熱力学的配位空間上の点を経由しながら起こるようにすることが可能であるかもしれない。このような事はいつでも可能であるとは限らないが、少なくとも仮想的には、局所平衡系のみを経由する(すなわち熱力学的配位空間上の曲線として表せる)状態変化というものを考える事が出来る(これが準静的過程というものの真の意味だ)。このとき、熱力学の第二法則が訓える所に拠れば、系の状態推移は、その曲線上で、必ず系全体のエントロピーが非減少になるように起こらねばならない。つまり、全エントロピーが高い所を始点とし、低い処を終点とするような状態変化は起こらないのである。これが不可逆の意味であり、準静的過程というものを此処でのようにとらえるのであれば、準静的過程は決して可逆変化とイコールではない。(更に云えば、状態空間上の与えられた二点に対して、それらを結ぶ準静的な道(過程)が全く勝手に引けるわけでもない。)

ここまでは、主として、系全体の状態推移を眺めてきたが、問題設定によっては、(複合)系の一部だけに着目して状態変化を見なければならない場合もある。実際、カルノーサイクルのような熱力学的サイクルを考える場合には、過程の各部分によって、着目系と接触している外部系が替わる(この点が非常に重要!)ので、系全体というものもその都度替わる。従って、着目している部分系のみを取り出して来た考察が必然的に要求される事になる。その場合でも、これまで考察してきたような考え方は有用であり、系全体としては全エントロピーが増大する(非減少になる)ように状態推移が起こっているのであるが、それを部分系だけに着目してみているために、系のエントロピーが減少していく様にみえる事も起こりえる(例えば、symさんのイジワル問題)のである。

  投稿者:murak - 2008/05/25(Sun) 14:18  No.3955 
蛇足ですが、少しだけ追加補足。

先に注意したように、カルノーサイクル等の熱力学的サイクルでは、着目系は、それが接する外部系をその都度替えながら1サイクルを完了する。典型的な例では、着目系は、高温熱源と接している間に熱を(従ってエントロピーも)受け取り(且つ仕事もする!)、次の断熱(膨張)過程において外部系に仕事をする。次に低温熱源と接することで熱を外部系に捨てると共に自らのエントロピーを減少させ、次の断熱的圧縮過程を通して元の状態に戻る。

これらの過程を通じて、着目系のエントロピーは増減するし、また外界に対して仕事をしたり、されたりもする。しかしながら、カルノーサイクルのようにサイクルが可逆な系では、サイクルの各過程を通じで、全系(その都度において着目系と接触のある全体)のエントロピーが一定に保たれるように工夫されている。実際、高温熱源と接触している際には、着目系及び外部熱源が共に一定の(同じ)温度を保つ(程度にゆっくり熱的接触を行う)事で、熱のやり取りはあるものの、それによるエントロピーの差し引きがゼロになるようにしている訳だし、断熱膨張過程では、外部との熱のやり取りを遮断し、かつ変化の各瞬間において着目系の平衡状態が維持される程度にゆっくり仕事をさせる事で着目系(そして多分外部系も)のエントロピー変化が起こらないようにしているわけである。従って、先の述べた、複合系の状態推移に関する原則と、それから必然として帰結される「可逆であるためには全系のエントロピーが一定であるべし」という原則は満たされている事になる。
(ちなみに、私が認識している可逆過程はこの二つ、すなわち準静的等温過程と準静的断熱(膨張・圧縮)過程くらいですが、他もあるかどうかはよく知らない。熱力学で準静的過程という概念が珍重される理由は、それを通じて系の出し入れする熱や仕事の量が(そしてまたエントロピーの変化量が)計算可能という処にあるのであって、それと過程が可逆であるかどうかは別問題であるというのが私の認識です(他の方とは見解が違うようですが)。)

教科書に出てくる熱力学的サイクルでは、このように、接触する外部系(熱源・仕事源)をその都度取り替えることで、高温熱源から熱のカタチでエネルギーを得て仕事を行い、かつ増加した内部のエントロピーを上手く捨てて元に戻るという過程を(時間あるいは行程的に分割して)実行しているのであるが、これを同時に全部一遍にやってしまうとどうなるか?例えば、(着目)系のある部分を高温熱源と接触させ(加熱し)、別のある部分を低温熱源と接触させる(冷却する)。このような状況を(流動可能な)流体の詰まった系に対して固定的に行うと、高温側から低温側への熱の流れが、そして更には物質の流れが起こるようになる。この場合、高温熱源から熱のカタチで系に流入したエネルギーは流体に運動を起こさせるというカタチで仕事に転化したことになる。そして系内で生じたエントロピー(これは拡散や運動による輸送で系内を高温側から低温側へ熱が流れる事で生じる)は低温熱源への熱流と共に系外に流れる。つまりこのようなシステムも一つの熱機関と考える事が出来る。勿論これは可逆ではないし、一般に仕事の効率も悪いが、自然界にそのような例はしばしば見られる。太陽からのエネルギーにより駆動される地球全体をとりまく大気や海洋の流れ(運動)というのも、(とても大規模ではあるが)そのような例の一つである。(これはまた、局所平衡的で準定常的ではあるが、全体としては非平衡であるような系の例にもなっている。)

  投稿者:ASA - 2008/05/25(Sun) 16:10  No.3959 
雑感に対して、野暮を承知でコメントします。
>システムも一つの熱機関と考える事が出来る。
系外部に仕事をしないものは、エンジンと呼べません。

>大気や海洋の流れ(運動)というのも、(とても大規模ではあるが)そのような例の一つである。(これはまた、局所平衡的で準定常的ではあるが、全体としては非平衡であるような系の例にもなっている。)
 意味不明です。大気現象は、カオス的なダイナミックな系と認識してました。竜巻などの気象現象は局所的ですけど平衡的準定常なのでしょうか?
 熱力学とどう関係すると考えておられるのか全く見えません。

  投稿者:murak - 2008/05/25(Sun) 17:23  No.3960 
> 系外部に仕事をしないものは、エンジンと呼べません。

工学的な見地ではそのようなものをエンジンと呼ばないのかもしれませんが、熱(の流れ)から仕事(運動エネルギーへの変換)を取り出しているという意味では熱機関と呼べるだろうと思うので書いたまで。(取り出しているというよりは勝手にそうなっていると云うべきか。)

> 意味不明です。大気現象は、カオス的なダイナミックな系と認識してました。竜巻などの気象現象は局所的ですけど平衡的準定常なのでしょうか?

失礼、大気現象のすべてをそう捉える事は(おっしゃるとおり)無理でしょう。しかし、大気現象の中でも特にスケールの大きな流れ(大循環)については、多くの部分をこのような見方で理解できるという事です。(実際、天気予報等の多くの数値モデルは流体力学と平衡系の熱力学の基本法則から組み立てられています。竜巻も或る程度の部分は、その枠組みで捉えられる。勿論それで全てを汲み取っているわけではないので、より良いモデルを目指して努力が続いているわけですが。。)

まあ、最後の部分は余談なので、無視してもらってもかまいません。

  投稿者:ASA - 2008/05/25(Sun) 18:40  No.3961 
>実際、天気予報等の多くの数値モデルは流体力学と平衡系の熱力学の基本法則から組み立てられています。
門外漢で実際のところは知りませんので、モデルで使用されている「平衡系の熱力学の基本法則」を具体的に教えてください。
ざっと調べた感じでは、平衡系の熱力学の基本法則を使用していないよう見えます。

  投稿者:murak - 2008/05/25(Sun) 20:02  No.3964 
既に幾つか調べられているようですが、とりあえず気象現象の予測等に通常使われている方程式系を(言葉で)書いておくと、

 運動方程式(3次元)
 連続の式(あるいは質量保存測)
 熱力学の式
 (理想気体の)状態方程式

となります(水蒸気を考慮しない場合)。
熱力学の式には色々な書き方がありますが、一つの書き方は気体のエントロピーを表現している温位とよばれる量θ(θ=T*(p_0/p)^{R/C_p})を用いて

  dθ/dt = (θ/C_p)*T*Q

と書くものです。運動方程式は鉛直方向に静力学平衡(静水圧平衡)を仮定するかどうかで静力学方程式系と非静力学方程式系に分けられますが、今の場合は本質的ではありません。ASAさんが参照している室井さんの式では熱力学の式や運動方程式に拡散項が入っていますが、気象現象の場合は分子拡散等による熱の輸送は殆ど無視できる程度です。その代わり地面摩擦が問題となる大気境界層では乱流輸送が効いて来ますが、これも大規模(地球規模)運動の主たる活動の場である自由大気(境界層より上)ではあまり大きくありません。というわけで、熱力学の式の本質は上の様になって、これは系の或る部分に加えられた加熱量Qが、その部分のエントロピー変化を決めるという式であり結局熱力学の第一法則の亜種です(気象の分野ではこのQをしばしば非断熱加熱と呼んでいて、非常に重要な項です。しかもその具体的な値はモデルの他の部分で計算されて力学的な方程式系に与えられる)。この熱力学の第一法則と状態方程式から加熱を受けた系のある部分の圧力が変化して系全体の運動に跳ね返るというのが気象学における運動の本質です。この、系のある部分の圧力変化が熱力学の第一法則と状態方程式から決まるという部分がまさしく、系を(全体としては平衡していないが)局所的・瞬間的には熱平衡が成り立つ局所平衡系とみているということです。(なお、大気現象が準定常的に見えるるというのはもっと大きな空間・時間スケールで現象の平均像を捉える気候学的視点で見た場合の話です。)

  投稿者:ASA - 2008/05/26(Mon) 08:22  No.3966 
>熱力学の式
この名称には抵抗があって、結局流体力学でのエネルギー方程式です。エネルギーが保存するという熱力学に限らず一般的な物理学で成立する話。むろん、平衡・非平衡に関係ありません。

>  dθ/dt = (θ/C_p)*T*Q
温度をパラメタとする方程式で、温度の時間変化は、温度と熱量に依存するというものですから非定常の伝熱方程式ですね。
 範疇としては、熱力学でないと認識してます。

もしかして、「熱がエネルギーの一種である」ということを「平衡系の熱力学の基本法則」とおっしゃってるしょうか?
すると、わざわざ平衡系と限定したことの意味は何なのでしょうか?
エネルギー方程式は、非平衡でも成立するわけですし。
熱平衡の話をするなら、熱力学の第0法則を用いないと辻褄が合わないような気がしたので野暮承知で突っ込んでみました。

  投稿者:murak - 2008/05/26(Mon) 11:42  No.3968 
第0法則は勿論使われています。着目している(1グリッド当たりの)空気塊については、(計算の各瞬間で)その中で温度分布や圧力分布が一様になる熱平衡状態にあるとして、状態方程式から諸状態量を決めているわけです。エネルギー保存則であるとみた熱力学の第一法則自体は、平衡系・非平衡系を問わず一般に成り立つ法則ですが、状態変化が起こったとき、着目系が行った仕事(及び出し入れした熱量)を(平衡状態ばかりからなる経路である)準静的過程に沿って計算するというのは、平衡系の熱力学における作法です。運動している流体の各部分は(各瞬間で)周囲の流体塊と力学的にも平衡していると考えられるので、この方法で計算した仕事(圧力の作用)は有効であり、流体の各部分の運動量変化と整合する(というか、整合するように運動が起こる)わけです。(この仮定が妥当かどうかは、結果として計算される運動が現実を反映しているかどうかにより判断される。)

なお、先にも述べたように、気象現象では拡散による熱伝導は無視できる程度で、運動は基本的に断熱的に起こっていると考えるのは、そう悪くない近似です。実際、先に書いた熱力学の式というか熱力学の第一法則は、Q=0であるとすれば、着目している空気塊をラグランジュ的に追いかけたとき、そのエントロピー変化がゼロである(温位が保存する)という式です。ただし、気象現象の場合は熱源としてのQもちゃんとあって、それは主に放射(太陽光や地表面からの赤外放射に起因する加熱)や(水蒸気を考慮する場合は)水蒸気の凝結による潜熱の放出で、それが空気塊の運動を断熱的なものから逸らす原因になる。

  投稿者:ASA - 2008/05/26(Mon) 14:27  No.3969 
>着目している(1グリッド当たりの)空気塊については、(計算の各瞬間で)その中で温度分布や圧力分布が一様になる熱平衡状態にあるとして、状態方程式から諸状態量を決めているわけです。
むしろ、流体素片内で状態方程式が成立する(圧力と温度、密度が関係付けられる)が、素片間でその温度変化が大きくないという近似が成立しているモデル。つまり、流体素片間での温度差はあまり大きくないという前提でなので、厳密には第0法則が当てはまらないと考えます。

>準静的過程に沿って計算するというのは、平衡系の熱力学における作法です。
 エネルギー方程式の導出には「準静的過程」は不要で、領域内の熱や仕事の収支だけですよ。

ということで「熱平衡」に拘る理由がピンと来ないのですよ。

>水蒸気の凝結による潜熱の放出
 これを無視しちゃ、雲の発達やら降雨量など計算できないでしょ。

  投稿者:murak - 2008/05/26(Mon) 18:42  No.3970 
> エネルギー方程式の導出には「準静的過程」は不要で、領域内の熱や仕事の収支だけですよ。

エネルギー方程式の導出の話をしているわけではなく、その使い方の話をしているのである。単なるエネルギー保存則とみた熱力学の第一法則からわかるのは、状態変化の前後における「熱と仕事」の収支であってその内訳はわからない。しかし、熱力学における(熱力学の)第一法則は、もう少し強いことを言っていて、その変化が準静的であるならば(つまり近似的に平衡状態とみなせる状態点ばかりを通る過程であるならば)、その経路に従って例えば pdV を積分することでその仕事が分かる。つまり、着目系の内部エネルギーの変化のうち、どれだけが仕事に使われて、どれだけが熱として外部に流れたかが分かると言っている。この、pdVが系のした仕事を正しく表しているという事と、状態変化が準静的であることは密接に関係しているというのが私の認識です。

> これを無視しちゃ、雲の発達やら降雨量など計算できないでしょ。

だからそれ(というかQの項)が大事というのが、私の一連の説明が意図している事の一つであったのですが。。。
先の発言でQ=0の場合の話をしたのは、Qが主に外部(必ずしも厳密ではないが)の熱源から与えられる加熱を表している事を強調するためと、その場合、運動が断熱的準静的(等エントロピー的)に起こることを注意して式の意味を明確にするためであったわけです。

  投稿者:ASA - 2008/05/27(Tue) 07:36  No.3974 
>もう少し強いことを言っていて、
つまり、熱力学の第一法則は、限定が厳しく適用範囲が狭いわけでよね。
 しかし、エネルギー方程式は、粘性抵抗項も含んでおりより包括的です。
 このため、外から与えられた仕事が熱に変化するような不可逆過程(準静的でない)を記述出来ているわけです。
 逆に準静的過程は、熱と仕事との両者の切り分けが行えるような過程で、取り扱いが単純ということです。

 実際の気象計算で、限定が厳しく適用範囲が狭い熱力学の法則がどのように使用されているのかが解らないので、知っているなら教えて欲しいというのが質問の意図です。

  投稿者:murak - 2008/05/27(Tue) 09:39  No.3976 
> つまり、熱力学の第一法則は、限定が厳しく適用範囲が狭いわけでよね。

そうではない。実際にはむしろ逆で、「(準静的過程を扱う平衡系の)熱力学の適用範囲は以外に広い」というのが私の言いたい事だ。

ASAさんは#3964の熱力学の式(第一法則)を熱伝方程式とみてしまったようだが、それは間違いだ。既に何度も言っているように、あれはむしろ流体素片の間で(更にその内部でも)熱が流れない、つまり、運動は基本的に断熱的に起こるということを表現している式だ。そのため、空間的な加熱の不均衡(あるいは局所的な加熱による有効位置エネルギーの蓄積)は(熱伝導ではなく)運動(対流)により解消されることになる。つまり、そのような系として振舞うように、気象学の方程式系はつくられているということだ。

(これから出張なので、詳しくはまた後日)

  投稿者:ASA - 2008/05/27(Tue) 14:23  No.3978 
>実際にはむしろ逆で、「(準静的過程を扱う平衡系の)熱力学の適用範囲は以外に広い」というのが私の言いたい事だ。
それが伝わってこないのですよね。

>#3964の熱力学の式(第一法則)を熱伝方程式とみてしまったようだが、
 熱に伴う温度の変化を決定する式でしょ。流体素片に乗らない目で見れば、熱が伝わっていくように見えるわけ。流体素片間の伝導とみてませんよ。

>空間的な加熱の不均衡(あるいは局所的な加熱による有効位置エネルギーの蓄積)は(熱伝導ではなく)運動(対流)により解消されることになる。
 おっしゃることがよく分からないのですが、上空で雨粒や氷粒が出来て落下するときは、空気が動かなくても、熱が運ばれるのですけど、こういったケースを気象学の方程式系では考慮していないということですか?(まさか、そんなことないでしょ。)

  投稿者:TOSHI - 2008/05/27(Tue) 14:52  No.3979 
 TOSHIです。

>空間的な加熱の不均衡(あるいは局所的な加熱による有効位置エネルギーの蓄積)は(熱伝導ではなく)運動(対流)により解消されることになる。

 通常の下部温度が高く,上部温度が低くて勾配の絶対値が大きくなったときに重力との関係で生ずるベナール対流は,下部の熱が大きくなりすぎて,熱伝導だけではそれを上部などに伝えて逃がすのが不可能となって熱を流体自身に載せて運ぶしかなくなったから生じるのだと思います。

 もちろん,加熱による局所的エネルギーの蓄積は小さければ熱伝導だけでも解消されるし大きくても対流と共に熱伝導も起こっているはずです。
                  TOSHI

  投稿者:murak - 2008/06/08(Sun) 20:36  No.4127 
出張以来そのままになっていたので、一応#3978,3979に答えておきます。

TOSHIさんの言われるように一般には熱伝導も対流も起こっているのですが、気象の場合は(以前述べた様に)熱の輸送における伝導の役割は比較的小さく(あるいは熱伝導係数が小さく)、対流が起こりやすい系になっているという事です。その場合、或る場所で加熱を受けて温度の上昇した気塊は温位(とよばれる乾燥空気のエントロピーに関係する量)を(近似的に)保存しながら運動し、冷却の行われる場所に行って、そこで熱を放出するような流れが系に出来る事になります。地球大気を鉛直方向に見た場合、加熱は一般に地表付近で起こり、冷却は上空で起こるという関係になっていますし、もっと大きな空間スケールでみれば、加熱は主に赤道域(熱帯域)で起こり、冷却は極域(高緯度)で起こるという仕組みになっています。こういう過熱、冷却の大規模な空間的不均一により、大気には地球全体をとりまくような大規模な流れ(対流)が出来ている。(ただし、そのような流れが回転球面上に拘束されているという特殊性から、地球程度の自転の大きさでは、中緯度に運動量の集中したジェットが形成され、更にそれの力学的な不安定により中緯度の地上付近には高低気圧が形成されるという仕組みになっている。かなり大雑把な説明ですが。)これを更に、時間的に長いスケール(具体的には数十年といったスケール)で平均してみると、地球規模でみて高温域である低緯度から低温域である高緯度への準定常的な熱の流れが出来ていることになる。それが#3955の最後あたりを書いたときに念頭においていた事です。

なお、

> 上空で雨粒や氷粒が出来て落下するときは、空気が動かなくても、熱が運ばれるのですけど、こういったケースを気象学の方程式系では考慮していないということですか?(まさか、そんなことないでしょ。)

という御質問の件ですが、私も全てを知っている訳ではないし、特に最近の比較的小スケールの現象を扱うモデルの事は疎いですが、気象学における数値計算モデルの発展の歴史から言えば、初期の頃の全地球的な大気の運動を扱うモデルで扱っていなかった事は言ええると思います。それには勿論理由があって、大気の運動を第一に考える立場からは、一旦凝結して潜熱を放出してしまった水蒸気(つまり雨や雪)は系外に出たとみなし得るからです。そして、それらが(その温度に応じて)熱を下方に運んでいるとしても、その熱の流れ自体が大気の運動に与える影響は小さい。それより、地表付近で潜熱を得た水蒸気が大気と共に上方に運ばれ、途中でそれを開放する事による鉛直上方への熱の流れの方が遥かに大きい。つまり降水現象というものの大気の運動における熱力学的役割というのは、熱を(地上付近から)上空に運ぶという事です。(そして、途中で放出された熱は、更に大気の上方への運動を加速する。)
なお、モデルによっては、落下する雨や雪が途中で再び気化する事で、周囲の空気から熱を奪うという効果や、雨粒等が摩擦で周囲の空気を下方に引きずるという効果については入れている場合もあります。