EMANの物理学 過去ログ No.2081 〜

 ● ヒッグス場とブランス・ディッケ理論

  投稿者:ワイル - 2007/07/26(Thu) 17:20  No.2081 
「日経サイエンス」の最新号(2007年9月号)
http://www.nikkei-science.com/
の2つの特集記事
・素粒子宇宙論の誕生(D.カイザー)
・宇宙誕生の謎解きに挑む 私が見た素粒子宇宙論の歩み
(佐藤勝彦)
において、素粒子論と宇宙論との関連が語られていますが、
その中でも、GWS電弱理論が予言するヒッグス場と、ブラン
ス・ディッケの重力理論で導入されたスカラー場との関連
の話が興味深いです。

ブランス・ディッケの重力理論とは、以前も話ましたが、
1961年に、カール・ブランスとロバート・ディッケによっ
て発表された重力理論で、アインシュタインの一般相対論で
は定数とされている重力定数Gの逆数を意味する、時間とと
もに変化するスカラー場を加えて拡張した重力理論です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Brans-Dicke_theory

ちなみに、このブランス・ディッケの重力理論も、アインシ
ュタインの一般相対論と同様に、
・大域的一般相対性原理
・局所的特殊相対性原理
・等価原理
を満たす重力理論です。

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>> あるいは、重力理論(一般相対論)と ゲージ理論(場の量子論)との統合理論を実現してしまうような物理学者たちが、登場してくるかな?

この場合、つまり、統合理論を考える場合の重力理論では、
アインシュタインの一般相対論とともに、ブランス・ディッ
ケの重力理論にも、重要性がありそうです。

しかし、ブランス・ディッケ理論を解説している日本語の書
籍は、
http://books.livedoor.com/item4061551035.html
くらいしかなく、品切状態ときている。

講談社さん、こんな良い本を品切れのままで良いですか?

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ゲージ理論(場の量子論) ・・・ マクスウェル&ローレ
ンツの電磁場理論を、特殊相対性原理とゲージ原理をもとに
ヘルマン・ワイルによって再構築したワイル理論(アーベル
・ゲージ理論=可換ゲージ理論)と、これをC.ヤンとロバー
ト・ミズリ(さらに、日本の内山龍雄)によって拡張された
ヤン・ミルズ理論(非アーベル・ゲージ理論=非可換ゲージ
理論)とがあります。
これらのゲージ理論は、
・大域的に特殊相対性原理
・局所的にゲージ原理
を満たします。

現代の「場の量子論」の主流である「ゲージ場の量子論」は、
これらのゲージ理論と、クライン・ゴードンやディラックな
どにより相対論的量子力学とを基礎とする理論です。

量子電磁力学(QED)は、ワイル理論と相対論的量子力学とを
基礎にしている理論であり、量子色力学(QCD)や、ヒッグス
場を予言するGWSの電弱理論などは、ヤン・ミルズ理論と相対
論的量子力学を基礎にしています。

  投稿者:ワイル - 2007/07/26(Thu) 17:35  No.2082 
>> あるいは、重力理論(一般相対論)と ゲージ理論(場の量子論)との統合理論を実現してしまうような物理学者たちが、登場してくるかな?

超ひも理論なども、
・重力理論(一般相対論、ブランス・ディッケ理論) ・・・ 重力場=時空 の理論
・ゲージ理論(ワイル理論、ヤン・ミルズ理論) ・・・ 電磁場・強い力の場・弱い力の場の基礎理論
・相対論的量子力学 ・・・ レプトン&クォーク(スピノル粒子)やスカラー粒子(?)の理論
の3種類の統合をめざしているわけです。

今のところ、ゲージ理論と相対論的量子力学との統合理論は、「ゲージ場の量子論」という形で、ほぼ実現されています。

このことが、そのまま、現代物理の「鳥瞰図」といえるのでは?


  投稿者:ワイル - 2007/07/26(Thu) 18:01  No.2083 
>> ブランス・ディッケ理論
http://en.wikipedia.org/wiki/Brans-Dicke_theory

ブランス・ディッケ理論には、スカラー場Φを決めるための、
パラメータωがあり、これが大きくなると、アインシュタイン
の一般相対論そのものに近づくようですが、現在では、
観測結果から、これが3000以上ということになっている
http://www.is.oit.ac.jp/~shinkai/his/clubJ/0108_alpha.html
ため、オリジナル「ブランス・ディッケ理論」そのものでは、
一般相対論と、なんら変わらないため、これを「時間発展と
共に一般相対論に収束してゆく」というように修正した、
Damour-Nordtvedtのモデルなどが、考案されているようです。

しかし、そういう修正されたブランス・ディッケ型理論を
含め、ブランス・ディッケの理論の重力場を「ブランス・
ディッケ場」ともいっていて、「日経サイエンス」のD.カイ
ザーによる特集記事でも、ヒッグス場とブランス・ディッケ
場との関連性が述べられています。

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ちなみに、

ヒッグス場 ・・・ スカラー場
レプトン&クォークの場 ・・・ スピノル場
電磁場・強い力の場・弱い力の場 ・・・ ベクトル場
一般相対論の重力場 ・・・ テンソル場

で、

ブランス・ディッケ型の重力場 ・・・ スカラー・テンソル場

です。






  投稿者:ワイル - 2007/07/26(Thu) 21:13  No.2084 
まず、訂正

>>ブランス・ディッケの重力理論とは、以前も話ましたが、
1961年に、カール・ブランスとロバート・ディッケによっ
て発表された重力理論で、アインシュタインの一般相対論で
は定数とされている重力定数Gの逆数を意味する、時間とと
もに変化するスカラー場を加えて拡張した重力理論です。

ブランス・ディッケ理論で導入された重力定数(または、
ニュートンの万有引力定数)Gの逆数を意味するスカラー場Φ
は、時間的にだけでな空間的にも変化する、という考えのも
のです。

また、ブランス・ディッケ理論では、同じ粒子であっても、
このスカラー場の逆数(つまり、重力定数G)が大きい場合
は、まわりの時空の歪みが大きくなり、重力定数Gが小さい
場合には、時空の歪みが小さくなる、ともしています。

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次にヒッグス場について。。。

ヒッグス場は、GWS(グラショウ・ワインバーグ・サラム)
の電弱理論で、弱い力の場の量子であるウィーク・ボゾン
が質量をもつことを説明するために、その存在を予言して
いるのですが、ヒッグス場の導入は、このGWSの電弱理論が、
はじめてというわけでなく、ブランス・ディッケ理論が発
表された1961年に、ジェフリー・ゴールドストンと
南部陽一郎とによる「自発的に対称性を破る場」として、導入
された場(のポテンシャル)Φが基で、その3年後、ピーター・ヒッグスは、その場Φによって、「質量」の起源を説明し
ました。これによって、この場は「ヒッグス場」とい名付けら
れたようです。

この場Φが変化すると、粒子は質量をもたず、この場Φが固
定値(2つの極小値のどちらか)をとると、粒子は質量を
持つ、というものです。

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ブランス・ディッケ理論で導入されたスカラー場も、
ゴールドストン・南部・ヒッグスによって導入された「自発
的に対称性を破る場」=ヒッグス場も、ともにΦで表された
場ですが、この両者に関連性があることを、1972年に、
アンソニー・ズィーとリー・スモーリンとが、それぞれ別の
論文で明らかにしたようです。

彼らによって、ブランス・ディッケ理論のスカラー場Φと、
ヒッグス場Φとを関連付けることで、「重力が、他の3種類の
力に比べ、なぜ、弱いか」を説明しています。

つまり、
「場Φが固定値(極小値)におちついたとき、重力定数Gの値が小さくなった」
としています。

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さらに、1981年に、アラン・グースが、宇宙誕生の最初
の瞬間に「インフレーション」とよぶ急膨張の原因として、
「インフラトン」とよばれる、ヒッグス場に似たスカラー場
を導入しています。

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その後の素粒子論と宇宙論の発展によって、ブランス・ディ
ッケ理論のスカラー場、ヒッグス場、インフラトンの3種類
のスカラー場を関連付けることが、当然のこととされていま
す。

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アメリカでは、ズィーおよびスモーリンとによって、ブラン
ス・ディッケ理論のスカラー場と、ヒッグス場とが関連付け
をされた1972年頃から、素粒子論と宇宙論との結びつき
が強くなり、「素粒子的宇宙論」が始まった、とされていま
す(D.カイザーの記事)。

しかし、ヨーロッパでは、ガモフの時代から、日本では、
1950年代の林忠四郎の研究によって、素粒子論と宇宙論
との繋がりが始まった、という話もあります(佐藤勝彦によ
る記事)。


  投稿者:ワイル - 2007/07/27(Fri) 10:28  No.2089 
現代では、物質世界のミクロの極限である素粒子の知識は、反
対にマクロの極限である宇宙の誕生や進化・構造を知るために
不可欠なもの、とされています。

このことを、GWS電弱理論の提唱者の一人、グラショウは、
「ウロロボス」という、自分の尻尾をかんでいる蛇にたと
えています(「ウロロボス」は、ヨーロッパなどでは、良くみ
かけるそうです)。

ところで、重力定数(万有引力定数)が、変化するのでは、と
いうことを提唱したのは、あの、P.A.ディラックです。
最近では、光速の値も、宇宙の初期では、現代より大きかった
のでは、という指摘もあります(スモーリンなどが提唱して
いる「ループ量子重力理論」など)。

でも、そういう世界は、今までの相対性理論や量子力学が扱っ
ている世界とは、比べ物にならないほど、超ミクロ&超高エ
ネルギー&超高密度の世界です。

かつてのニュートン力学がそうであったように、まともな科
学者などは、どんな科学理論であっても、無制限に正しい、
とは思っていません。

ニュートンやアインシュタイン、ハイゼンベルクなどの理論
は、それぞれの時代における自然に対しての人類の知識・情
報を基に、ニュートンやアインシュタインなどによる鋭い洞
察によって作られた理論です。

だから、ある意味、彼らの理論が正しいのは当然、といえる
のです。

しかし、ニュートンの時代における電磁現象、光の速さに近
いような現象、分子・原子の世界などについては、さすがの
ニュートンでさえ、想像範囲外でしょう。
あるいは、アインシュタインやハイゼンベルクの時代におい
ても、現代物理で語っているような宇宙の初期のような超ミ
クロ&超高エネルギーの世界などは、全く未知の世界だった
でしょう。

それぞれの想定外の範囲の世界・現象は、ニュートン力学や
相対性理論、量子力学などにとって、(ITの世界流にいえば
)「仕様範囲外」というようなものだと思います。

アインシュタインの一般相対論は、現在までのところ、ほぼ、
現在の我々の宇宙では正しい理論だと思います。

しかし、ミクロの世界を扱ったり、ヒッグス場との関連性を
持たせようとする場合、少なくともブランス・ディッケ理論
のような拡張・修正が必要になるかも知れません(そのブラ
ンス・ディッケ理論でも、スカラー場Φを決めるパラメータω
は、本来は定数なのですが、現在は、エネルギー値などによ
る「関数」に修正されているようです)。

また、アインシュタインの一般相対論は、一般相対性原理と
等価原理を満たす重力理論のひとつですが、逆に、一般相対
性原理と等価原理を満たす重力理論は、一般相対論以外にも、
いろいろと作れるようで、ブランス・ディッケ理論なども、
その一つです。
その中で、アインシュタインの一般相対論は、もっとも簡単
なもの、というわけです。また、重力定数Gが変化すること
を前提とした重力理論としては、ブランス・ディッケ理論が、
もっとも簡単なもの、といわれています。
(ミクロの世界のゲージ理論も、特殊相対性原理とゲージ原
理を満たす理論というわけですが、それも、ワイル理論や、
ヤン・ミルズ理論以外にも、数学的にはいろいろと作れるよ
うです)

まあ、少なくとも、物理や科学の世界では、ニュートンや
アインシュタイン、超ひも理論などの主流の理論以外の傍流
の理論にも、目を向けても良いかな、というところもありま
すね(特に日本の出版業界に、それを言いたいですね)。

それはそうと、宇宙の誕生や進化、という話は、100年前
であれば、宗教や哲学の世界の話だったわけですが、現代で
は、相対性理論と量子力学を基礎とする科学の言葉で語られる
ようになってきているわけです(ガリレオやニュートンらの
17世紀以前なら、太陽系の天体の運動などについても、
宗教や哲学の世界だったのでしょう)。

科学の進歩とは、本来は宗教・哲学の世界で議論していたもの
が、数理的かつ実験的・観測的な手法の世界で議論できるよう
になる、ということでしょうか?


  投稿者:ワイル - 2007/08/01(Wed) 10:38  No.2142 
物理の世界に限らず、オブジェ(現象とか物など含めて)といえるものには、いろいろな見方ができると思うのです。

現代物理では、荒っぽくいえば、「ヒッグス場」も「ブランス・ディッケのスカラー場」も、「質量」の起源を説明するために導入されたもの、といえるようです。

ただし、「ヒッグス場」は、ゴールドストーン、南部、ヒッグスにより、ゲージ理論や素粒子論の立場から、「ブランス・ディッケのスカラー場」は、ブランス&ディッケにより、重力理論や宇宙論の世界において、偶然にも、ほぼ同じ時期(1960年代初期)に、それぞれ導入されています。

そして、スモーリン(「ループ量子重力理論」などの提唱者です)らによって、その両者は、関連がある、ということも明らかにされた、というわけです。

この両者は、同じようなオブジェを、それぞれ異なる立場から考えて発見した、という感じなのでしょう。

また、「歴史は繰り返す」というのでしょうか?

100年前は、ニュートン力学とマクスウェル電磁気学という、当時の二大理論があり、その両者を統合するために、相対論が誕生したわけですが、その際、ニュートン力学が修正されました(そのニュートン力学は、300年ほど前に、ガリレオ&デカルトによる「地上の法則」と、チコ・ブラーヘ&ケプラーによる「天界の法則」とを統合する理論として誕生した、といえるものです)。

現在では、一般相対論と「ゲージ場の量子論」という2大理論の統合が問題になっています(その一般相対論と「ゲージ場の量子論」との統合を目指しているものとして、たとえば、「超ひも理論」があるわけです)。

ここで、一般相対論は、ニュートン力学にとって代わるものとして誕生した理論ですし、一方、「ゲージ場の量子論」は、マクスウェル電磁気学の末裔のような存在だと思います(「ゲージ場の量子論」は、特殊相対論と量子力学の統合理論を基礎にしています)。

現在、「ゲージ場の量子論」から出てきたヒッグス場によって、一般相対論がブランス・ディッケ理論のような形への修正・拡張の可能性が出てきている感じでしょうか。

ブランス・ディッケ理論のスカラー場Φというのは、一般相対論において定数となっている重力定数(または、ニュートンの万有引力定数)Gを、
Φ=1/G 
としてて置き換えたものです。

ただし、一般相対論では、重力定数Gは、その名の通り、固定的な「定数」ですが、ブランス・ディッケ理論のスカラー場Φは、空間的・時間的に変化する「変数」です。

現在では、「ヒッグス場」との関連性で、宇宙のエネルギー状態によって、そのスカラー場を決めるパラメータωが変化し、現在の宇宙では、一般相対論とほぼ一致するような値に収束するように修正された、「修正ブランス・ディッケ理論」といえるものになっているようです(また、これから分かるように、ブランス・ディッケ理論は、一般相対論を否定する理論でなく、これを拡張した理論なのです)。

もっとも、相対論誕生のときは、ニュートン力学は修正され、マクスウェル電磁気学は、ほぼ無修正でしたが、現在の一般相対論と「ゲージ場の量子論」の統合の際は、どちらも、全く無修正というわけには行かないようです。

一般相対論は、(修正)ブランス・ディッケ理論への拡張ということのほか、これをより高次元の理論に拡張した「超重力理論」という方向があります。

「ゲージ場の量子論」は、現在では、量子色力学(QCD)とGWS電弱理論との2つの標準理論がありますが、こちらは、大統一理論、さらには、超対称性大統一ゲージ理論への方向があります。

まさに、現代物理は、「色即是空」の世界といえるのでは、ないでしょうか?



  投稿者:ワイル - 2007/08/01(Wed) 19:59  No.2143 
>>一方、「ゲージ場の量子論」は、マクスウェル電磁気学の末裔のような存在だと思います

古典力学から量子力学に移行する場合には、解析力学の考え方や手法が有用ですが、それと同じように、古典的なマクスウェル&ローレンツの電磁気学(場の古典論)から、場の量子論に移行する際には、H.ワイルやヤン・ミルズなどのゲージ理論の考え方や手法が有用というわけです。

では、一般相対論やブランス・ディッケ理論のような古典的な重力場理論を重力場の量子論に移行させるにあたって、解析力学やゲージ理論のような有用な考え方や手法があるのでしょうか?

一般相対論や、それを拡張したブランス・ディッケ理論も、日本の内山龍雄によって、一種のゲージ理論であるとされていますし、ペンローズのツイスターの考え方や、アシュテカの複素正準理論による手法などが考えられているようですが、未だ決め手が無い、ということなのでしょう。