EMANの物理学 過去ログ No.1702 〜

 ● 汎関数微分の定義

  投稿者:EMAN - 2007/06/21(Thu) 12:41  No.1702 
 汎関数微分に関して、まだすっきりしない疑問が残っています。


疑問(1)

 汎関数微分の定義として

δI/δf(x') = lim_{e→0} { I[f(x)+eδ(x-x')] - I[f(x)] }/e

としてある教科書がありますが、ここでは変分としてデルタ関数を使っているようです。 デルタ関数は一点で無限大になるというイメージなので、実数 e を0に近づけるとしても、これを微小変分だと考えることに抵抗があります。

 何かコメントを頂けますでしょうか。


疑問(2)

 もう一点、汎関数微分の計算で、
I = ∫F(f,f_x) dx である時、

δI/δf(x')
= ∫{ (∂F/∂f) δf(x)/δf(x') + (∂F/∂f_x) δf_x/δf } dx

という計算をしている教科書があります。
 これで求めたいものが導かれてくることはじっくり考えて何とか理解できたのですが、間接的な理屈を省略した技巧的なものに思えます。

 そうではなく、これはごくごく当然、直接的で自然なものだ、と理解できるような視点はあるのでしょうか。

  投稿者:Φマン - 2007/06/21(Thu) 18:53  No.1703 
長く書いてたものが消えてしまったので、返事は短く書けという天からの指図だと思ってなるべく短く書きます。

1の疑問ですが、慣れの問題もあるでしょう。δ関数の発散するというイメージは、この場合でもやはり、すべての操作の後(すべての操作の意味は下参照)に行うということを念頭においてください。(以下、変換面倒なので微笑量を、ε=e, δ=dと書きます)

もう少し本質的なことは、具体的な変分をとると、変分値δI≡I[f+e*g]-I[f]がgの形によるのではないかという疑問がでます。もちろん依ります。そこで元の作用固有の情報をぬきだすような変分、つまりgの形に依らない因子を、を考えたほうが良いでしょう。それがδ関数を使ったdI/dfという変分です。

I[f+eg]-I[f]=∫dx F(f+eg)-F(f)=∫dx dF(f)/df×eg

これがgの形によった変分値。これにg(x)=∫dy g(y) δ(y-x) を代入にして、gを切り離すと

∫dx dF(f)/df×eg=∫dyg(y)∫dx dF(f)/df e δ(y-x)

後ろの項がδ関数をつかった変分。そしてこれは明らかにgに依らない。これを


I[f+eg]-I[f]=∫dyg(y) ×[δI/δf]

と書き、〔 〕でくくられた部分がδ関数をつかた変分。

またミスして消すと痛いので一度投稿




  投稿者:Φマン - 2007/06/21(Thu) 19:07  No.1704 
さて、「すべての操作の後」の意味ですが、つまり具体的なgを決めたときにというのがもっともな定義です。しかし、この場合δ関数はx積分の中に出てきていて、

∫dx dF(f)/df e δ(y-x)

この量自体すでに、有限です(eはとめて置いて)。つまりこの時点でデルタ関数の評価をして良い、そしてっ結果はばかばかしいけど通常の微分

dF(f)/df e

です。つまりデルタ関数を使った定義は変分を

d/de (I[f+eg]-I[f]) = ∫dyg(y) ×[δI/δf]

と書くための便法ともみれます。作用の変分は、その非積分関数に対する単なる微分 [δI/δf]=dF(f)/df という、結論です。

しかし、こういった技巧的な説明はあまり面白くないし、物理が見えないだろうと思われます。私のイメージは、変分とは、局所的に場を変えたときに作用がどれくらい変わるかというイメージです。たとえば海の波がfで、その高さを空間的に平均したものが何かの物理量Iだとします。興味は、津波が立ったときにIがどれくらい変わるかということです。津波は理想的な津波で、ほぼデルタ関数。そういったときに場を局所的に変えた変分の値が知りたいわけです。

で、もちろん、局所的に変えたときの変化がわかれば、どんな形に場を変えても変分値がわかりますから、こちらが便利なわけです。

(2)は何が疑問か、わからないので今はコメントできません。


  投稿者:murak - 2007/06/22(Fri) 14:25  No.1718 
一旦書き込んだのですが、気に入らないので消して、新たに書いています。

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汎関数微分の概念が変分法から来ている、あるいは変分法と密接に関係しているのは勿論の事なのですが、概念的に全く同じかどうかと問えば、微妙に異なる部分はありますね。一つには、変分という言い方をした場合は、考えている対象、あるいは問題の全体像を捕らえた言い方になっていて、汎関数微分と言った場合にはどちらかといえば物事を局所的にしか見ていないという印象はあるような気がします。あまり例え話はしたくないのですが、言ってみれば電磁気学の法則における積分形と微分形のようなものかもしれません。つまり変分計算の微分形にあたるようなものが欲しい、もう少し端的に言えば、その計算における(煩わしい?)積分の部分をとってしまいたい、という要求がその根底にはあるように思います。そのために変分計算の何等かの意味での概念拡張をすることを考えます。しかし、その源が変分法の計算にあることは間違いないので、汎関数微分の計算は、少なくとも変分計算を再現しなくてはなりません。そこで、何度も書いている変分計算の元々の定義式に戻って考えます。つまり

  I[f] = ∫ F(f(x), f'(x)) dx

のとき

  δI[η] = \lim (1/ε){ I[f+εη] - I[f] }
      = ∫ G(x)η(x) dx
      = <G,η>

です。物事を近視眼的に見ていることを考慮して(?)変分の端点のことは無視しており、最後の行は関数の積の積分を内積と見なす考え方に基づいて変分を内積の記号で書いています。G(x)の具体的な形は勿論計算すればわかりますが、ここではそれをわざとぼかして単にG(x)と書いています。

さて、この定義式を見ていてまず気がつくのは、Φマンさんもおっしゃっているように、変分δIの値自身は、計算の都合上最初に便宜的に(?)選んだ任意関数ηの形に依存してしまうという事です。この依存性を避けるには上に書いた定義式の最初と最後の形に注目し、δIに対して内積<,>の内部に現れるG(x)を直接対応させて、δI/δf(x)=G(x)と書いてしまえば良いでしょう。これがEMANさんの記事にも書いてある汎関数微分の最初の定義になります。つまりηに対する(線型)汎関数としての変分δIを、内積を通して普通の関数に焼き直したものが汎関数微分の本来の意味です。(これは多変数関数における全微分と勾配ベクトルの関係と同等。)

上の定義で、変分の定義式に現れるη依存性を消すことは一応出来たわけですが、変分からη依存性を消すにはもう少し別の方法もあります。そのためには、δIのη依存性が、線型の関係にあることにまず注目します。そして少々強引に見えるかもしれませんがη(x)自体をデルタ関数を用いて次のように連続的な線形結合の形に(先に)展開してしまいます。

  η(x) = ∫ η(s)δ(x-s) ds

この展開式を上のδI[η]の定義式の真ん中のもの(積分の形のもの)に代入して積分の順序を入れ替えて

  δI[η] = ∫η(s)ds { ∫G(x)δ(x-s)dx }

としてやります。ここで更に(先に注意した)δIのηに対する線型性に着目し、δI[η]自体を

  δI[η] = ∫η(s)ds { δI[δ(x-s)] }

と展開してしまうのです。そうすると、結局δI[η]を計算するには、まずデルタ関数に対する δI[δ(x-s)] を先に計算しておいて、その後にsに関する連続的線形結合をとる(重ね合わせる)という方法で計算しても良いことがわかります。で、デルタ関数に対する変分計算というのを、変分の最初の定義に戻って書き直すと、

  δI[δ(x-s)] = \lim (1/ε) {I[f+εδ(x-s)] - I[f] }

のような書き方が出来ることがわかるでしょう。ここまでの議論を逆に辿ると

  \lim (1/ε) {I[f+εδ(x-s)] - I[f] } = δI[δ(x-s)]
               = ∫G(x)δ(x-s)dx
               = G(s)

が得られます。これが汎関数微分の第二の定義を与えることになります。



  投稿者:murak - 2007/06/22(Fri) 18:17  No.1722 
更に汎関数微分の第三の定義を考えます。これはある意味、前回述べた二番目の定義より更に奇妙で奇天烈です。しかし、そのためには少し準備が必要なので、ここで少し寄り道をして別のことを考えてみましょう。

これまで、考えてきた変分問題は元の汎関数I[f]が積分の形で書けるものばかりでした。従って、当然、汎関数微分も、積分の形で書ける汎関数の汎関数微分しか考えていない訳です。しかし、ここでは積分の形で書けない汎関数I[f]を取り上げて、その汎関数微分(あるいは変分)がどうなるかを考えてみます。

そのような汎関数の一つの典型は、関数f(x)に対して、その特定の場所 x=a での値 f(a) を対応させるような特別な対応H[f]=f(a)を考えてみましょう。これは関数fに一つの数値(実数あるいは複素数)f(a)を対応させる対応関係ですから、明らかに一つの汎関数であると言えます。しかも、これは線型汎関数でもあります。(実際関数の線型結合 αf(x)+βg(x) に対し、 H[αf+βg]=αf(a)+βg(a)=αH[f]+βH[g] が成り立つ。)

このような汎関数は普通の意味では積分の形には表示できないのですが、ここに出入りする皆さんの多くの方は、そのような汎関数でも、超関数の一種であるデルタ関数を用いれば次のような積分表示か可能であることを知っておられるでしょう。

  H[f] = f(a) = ∫f(x)δ(x-a)dx

(これは、形式的には前回の発言で書いたηのデルタ関数による展開と同じものであるとも言えます。) そこで、この表示を用いて汎関数H[f]の変分δH[η]を(無理矢理?)つくってみましょう。すると

  δH[η] = \lim (1/ε)∫{ (f(x)+εη(x))δ(x-a) - f(x)δ(x-a) } dx
      = \lim(1/ε)∫εη(x)δ(x-a) dx
      = ∫δ(x-a)η(x) dx
      = <δ(x-a),η>      = η(a)

となって、一瞬何だ???と思うかもしれませんが、この結果を形式的に解釈すると H[f]=f(a) の場合の H の汎関数微分はδ(x-a)になるということになります。つまりδH/δf=δ(x-a)ですが、これをいっそ、次のように書いてしまいましょう。

  δf(a)/δf(x) = δf/δf(x) = δ(x-a)

(これは本来、fにx=aでの値f(a)を対応させるという汎関数をfで汎関数微分したという意味であるが、気分的には何となく関数f自体をfで汎関数微分したように見える。)

同様に J[f]=f'(a) とおいて f に x=a での微分係数を対応させる汎関数 J を考えることも出来る。この汎関数 J[f] を ∫f'(x)δ(x-a)dx と表示して於いてその変分を考え、形式的な変形を続けると、

  δJ[η] = ∫η'(x)δ(x-a) dx   = η'(a)
      = - ∫δ'(x-a)η(x) dx
      = <-δ'(x-a),η>

が得られます。つまり f に対して f'(a) を与えるという汎関数の汎関数微分は -δ'(x-a) になるというわけです。先程と同様にこれを次のように書いてしまいましょう。

  δf'(a)/δf(x) = δf'/δf(x) = - δ'(x-a)


  投稿者:murak - 2007/06/22(Fri) 19:55  No.1723 
#1722に述べた準備の下に、汎関数微分の第三の定義を考えます。そのためには、やはり変分計算の最初の定義に戻って考えましょう。I[f]=∫F(x,f,f')dx として定義に従って計算を進めると次のような場面に遭遇するでしょう。

  δI[η] = ∫{(∂F/∂f)(x)η(x) + (∂F/∂f')(x)η'(x)} dx

ここで、前回の計算の途中で出てきた関係式

  η(a) = ∫δ(x-a)η(x) dx
  η'(a) = ∫η'(x)δ(x-a) dx = - ∫δ'(x-a)η(x) dx

に注目して上の積分のη(x), η'(x)の項を書き換えて、更に積分の順序を交換してやると上の積分は

  ∫η(x')dx' [ ∫{(∂F/∂f)(x)δ(x'-x) - (∂F/∂f')(x)δ'(x'-x)} dx ]

と書けるでしょう。この積分内のデルタ関数及びその微分の部分を、前回見たf及びf'の汎関数微分δf/δf及びδf'/δfで更に置き換えてやると、ちょっとややこしいですが、結局

  δI[η] = ∫[∫{(∂F/∂f)(δf(x)/δf(x'))+(∂F/∂f')(δf'(x)/δf(x'))}dx ]η(x') dx'
      = < ∫{(∂F/∂f)(δf/δf(x'))+(∂F/∂f')(δf'/δf(x'))}dx, η>

という式が得られるのがわかると思います。従って、汎関数微分の本来の定義から言えば、

  δI/δf(x') = G(x') =∫{(∂F/∂f)(δf/δf(x'))+(∂F/∂f')(δf'/δf(x'))}dx

と書かれるべきであることがわかるでしょう。

これがつまり汎関数微分の第三の定義の正体です。

この定義から、δf/δf, δf'/δf の部分を(それらの定義に基づいて)デルタ関数(及びその微分)に戻してやって、順当に計算を進めれば、望む結果が得られることは、EMANさんには既にお分かりの筈ですから、これ以上は説明しません。

とりあえず以上です。

  投稿者:murak - 2007/06/23(Sat) 17:53  No.1730 
幾つか補足をしておきます。

変分法の元々の考え方は次のようなものでした。

汎関数のカタチをしたある量 I[f] がある際に、その変数である関数(のカタチ)を微小(仮にδfと書いておく)に変化させた場合の I の変化 δI を考え、(f の変化に対して)I の変化が滞る場所(関数 f)をみつければ、それが I の極値(あるいは停留値)を与える関数になる。

これは、普通の関数の極値を求める場合の考え方、すなわち微分法の考え方と殆ど同じです。従って多くの人は、変分法と微分法の間に何等かのアナロジーが成立すると考える。このこと自体は大きく間違ってはいないが、幾つかの注意も必要である。例えば、多くの人は微分法といえば普通は一変関数の微分のことをイメージする。つまり独立変数 x の微小変化凅に対する関数値の微小変化冉の比冉/凅を考え、この凅 → 0 の極限が微分係数 df/dx の定義であった。しかし、これと同じことを変分法で考えようとすると、直ちに困難に直面する。何故なら、変分法の場合δIは数値であるが、δfは(関数であって)数値でないから、比 δI/δf は意味を持たない(意味不明の量である)からである。

しかしこのような困難は、変分法までいかなくても、多変数関数の微分を考る段階で既に存在していた。実際 f が二変数関数 f(x,y) であれば、独立変数側の微小変化というのは二つの成分を持つベクトル量 (凅, 凉) である。従って、関数値の微小変化とこれらのベクトル量の間の比をとることは出来ない。そのため、多変数関数の微分には全微分とか偏微分とかが現れて若干ややこしい事になるが、結論としては、多変数関数 f の微小変化冉と (凅, 凉) の関係は(近似的に)次のようになる。

  冉 = (∂f/∂x)凅 + (∂f/∂y)凉

この、(凅, 凉) → (0,0) の極限として、いわゆる全微分の関係式

  df = (∂f/∂x) dx + (∂f/∂y) dy

が得られるのであった。以上は一般論であるが、このような計算を具体的に数値的に行うことを想像してみよう。つまり x-y 平面上の任意の点 P=(x0, y0) の近傍において任意の方向から P に近づいていったときの f の微分係数を数値的に求めるプログラムを書くとするわけです。オーソドックスな一つの方法は次のようなものです。まず点Pを決める。次に微分の方向を指定する一つのベクトルη=(η_x, η_y)を決める。そして補助変数εを導入し、点Pの近傍 P'=P+εη=(x0+εη_x, y0+εη_y)における関数値 f(P') を求め、f(P)との差をとりεで割る。この計算をεを小さくしながら繰り返し、極限値を求める。以上の手続きを数式的に表現すれば

  \lim_{ε→0} { f(P+εη) - f(P) }/ε

と表現できるでしょう。この極限値を f のη方向微分係数と呼び、 df(η) と書いてやります。この計算においてη=(1,0)と選べば、得られる結果が ∂f/∂x を、η=(0,1)と選べば ∂f/∂y を表すことは言うまでもないでしょう。一般に η=(η_x, η_y) とした場合の結果は

  df(η) = (∂f/∂x)η_x + (∂f/∂y)η_y

ですが、この結果は、dx, dy をベクトル η=(η_x, η_y) に対して、その相当成分を取り出す作用素(線型汎関数)と考えれば、

  df(η) = (∂f/∂x) dx(η) + (∂f/∂y) dy(η)

と書くことも出来ます(実は、これが数学屋が理解しているところの全微分 df の意味です)。また更に、ベクトルの内積を用いれば

  df(η) = < grad f , η >

と書くことが出来ます。これらの結果はただちに n 次元の場合に一般化されます。この形式と、私がしばしば使っている変分の書き方、

  δI[η] = \lim (1/ε){ I[f+εη] - I[f] }
      = ∫G(x)η(x) dx
      = < G(x), η(x) >

の間には非常に高い類似性があります。つまり微分と変分のアナロジーは、変分を多変数関数における方向微分係数(あるいは全微分)と考えた場合にようやく意味をもつものになります。

このアナロジーでは G(x) と、多変数関数の微分における勾配ベクトル grad f とが対応している事に注意しましょう。また、変分をとる際に選ぶ任意関数η(x)が、方向微分をとる際の方向ベクトルη=(η_x, η_y)に対応している事にも注意してください。つまり、関数 f の微小変分δfに相当するものはεηであって、η自体は微小量ではありません。これは方向微分の際に、方向を決めるベクトルη自体は微小量でないのと同じ事です。つまり、変分や方向微分を内積記号を用いて上の様に表した場合、そこに登場する量はどれも有限の値を持つ量であって、微小量はどこにも登場しないのです。

で、I の変分がゼロになるといった場合、それが意味することは有限の量で書かれた内積 < G(x), η(x) > が(ηの選び方にかかわらず)ゼロになるという事ですから、それは G(x)=0 を意味することになります。(これは、有限次元の場合に、df(η)=<grad f,η>=0 がηの選び方によらずゼロになる為には grad f = 0 でなければならなかったのと同じ事です。)

(続く)


  投稿者:murak - 2007/06/24(Sun) 12:18  No.1733 
#1730 の最後に書いた、

  内積で書かれた量 <G,η> が任意のηに対してゼロならば実は G がゼロ

というロジックについて少し考えてみましょう。

有限次元ベクトル空間の内積の場合内積 <x,y>=0 が意味することは二つのベクトル x, y が互いに直交しているという事でした。で、もしあるベクトルが(そのベクトル空間内の)全てのベクトルと直交するならば、それはゼロベクトルでなければならないというのが上のロジックの意味するところでした。無限次元の関数空間であっても、そのロジックは共通ですが、関数の直交性の意味に注意を払う必要があります。関数空間での直交性を視覚的に説明することはあまり簡単でありませんが、内積が関数の積の積分で表されている場合、その直交性が直ちにわかるとても簡単な例があります。例えば積分区間を前半と後半の二つに分けて、前半の区間でのみ(ゼロでない)値を持ち後半ではべったりゼロという関数と、前半ではべったりゼロだが後半では値を持つような関数を考えると、この二つの関数は明らかに直交します。同様に積分区間を互いに交わらない幾つかの小区間の組に分割して、ある小区間内では零でない値を持つが、その区間の外側では値が零であるような関数の集まりを考えましょう。このとき、異なる小区間に対応する関数同士は互いに直交する関係にあることは、すぐにわかります。逆に、ある小区間の内部でのみ値を持つ関数の集まり(の全て)と直交する関数というものを考えると、それはその小区間の外部では値を持つかもしれないが、少なくともその小区間での値についてはゼロになっていないといけないことが容易にわかるでしょう。このような小区間族上でのみ値を持つ関数の族をテスト関数として選び次々と G(x) との内積をとって、その値がゼロになることを確認してゆくと、G(x)が(ゼロでない)値をもてる範囲がどんどん狭められていって、ついには全ての x に対してG(x)がゼロになることがわかるというのが冒頭に書いたロジックの(一つの)解釈です。

上で説明した区間分割を更に推し進め、各小区間の大きさを一点にまで縮めてしまうことを考えましょう。このとき各区間上でのみ値を持つ関数の族の代表選手がデルタ関数になることは容易に想像がつくでしょう。つまり区間内の各点 a に対し、デルタ関数δ(x-a)を対応させ {δ(x-a)} というデルタ関数の族を考えると、これが点 a (の近傍)でのみ値を持つ互いに直交する関数の族というものを象徴的に表していることがわかります。 デルタ関数δ(x-a)とG(x)の内積は

  <G,δ(x-a)> = ∫G(x)δ(x-a)dx = G(a)

ですから、デルタ関数δ(x-a)との内積が零になる(直交する)ということは、「(x=a という点以外での G の値のことは知らないが)少なくとも x=a という点での G(x) の値はゼロである」という事を意味していることになります。

以上を念頭においた上で、再び変分計算の定義に戻ります。

  δI[η] = ∫G(x)η(x)dx = <G, η>

でしたから、ηとしてデルタ関数δ(x-a)を選んで変分をとって、それがゼロになったとするなら、そのことが意味しているのは、少なくとも x=a という点においては G(x) はデルタ関数と直交しているという事です。その事から副次的に G(a)=0 である事が従います(ただし、それ以外の場所での値はわからない)。一方、デルタ関数との内積には x=a での関数の値を取り出すという働きもありますから、もう少し一般的に言えばδ(x-a)で変分をとるという行為は、結局 G(x) の x=a での値を抜き出してくるという行為に相当していることがわかります。ただし、これは x=a という点でのみ有効な行為ですから、G(x)の全体像を得るには、この行為を積分区間内の全ての x について(連続的に)行う必要があります。(といっても a が区間内の任意の点を代表しているとして計算できるなら、それで実質的には一回でO.K.)

これがつまり、#1718に書いた汎関数微分の第二の定義の意味論的な内容です。#1718での計算の内容はかなり技巧的に感じるでしょうが、上に述べた事を参考にその意味するところを反省してみると、これは実は、変分計算というものにかなり新しい視点を与えているものであることがわかります。実際、前回(#1730)に述べた、普通の数学の教科書に書いてある説明からすれば、E-L方程式を得るには一旦任意関数ηを経由した変分計算を行って、積分記号の中の G(x) をゼロとおくという少々まわりくどい事をしなければならなかったのが、この方法では(積分記号の中にある筈の) G(x) そのものが直接的に計算できてしまうからです。つまり#1730における多変数関の微分とのアナロジーで言えば、方向微分という概念を経ることなく勾配ベクトル grad f そのものを直接計算する方法を、この技巧は与えるのです。その計算の鍵はデルタ関数による変分計算 δI[δ(x-a)] にありますが、これは#1730に述べた多変数関数の微分法との関連で言えば、方向ベクトルηとして (0,0,...,0,1,0,...,0) のような(特定の成分だけが 1 である)特別なものを選ぶと i 番目の成分に関する偏微分 ∂f/∂x^i が得られるという状況と対応していることがわかるでしょう(そして全ての i について偏微分を計算すると勾配ベクトル grad f が得られるのと同様に、すべての点 a でG(a)の計算を行うとG(x)の全体像が得られる)。つまり関数空間内におけるデルタ関数は有限次元ベクトル空間における(特定の軸方向の)単位ベクトルに相当するものになっており、デルタ関数による変分計算が多変数関数における偏微分に相当するものであることがわかります。#1730では汎関数の変分が多変数関数の全微分(あるいは方向微分)に対応する事、及びG(x)が grad f に対応していることを述べましたが、その説明では偏微分に相当する概念が欠落していました。それがここに来てようやく意味付けられたともいえます。

  投稿者:murak - 2007/06/26(Tue) 22:34  No.1760 
以上長々と述べてきましたが、#1730, 1733で述べたことを要約すると、

考えている区間上で定義されたデルタ関数の族 {δ(x-a)}_{a} を考えると、これはその区間上のある関数空間の(連続的な)正規直交基底になっており、その一つの基底ベクトルである δ(x-a) による変分計算

  δI[f]/δf(a) = δI[δ(x-a)] = \lim (1/ε){ I[f+εδ(x-a)] - I[f] }

は、多変数関数の微分とのアナロジーで言えば、座標軸に沿った特殊な方向ベクトル(それは単位ベクトルであって、微少ベクトルではなかった事に注意)による方向微分係数、すなわち偏微分係数の計算に相当するものと考えることができるのでした。これがすなわち汎関数微分の第二の定義(#1702の疑問(1)の式)を与えるわけですが、この定義を認めると、第三の定義(疑問(2)の式)は、形式的には次の様にして得られます。

I[f] = ∫F(x,f(x),f'(x))dx のとき

  δI[f]/δf(a) = \lim (1/ε){ I[f+εδ(x-a)] - I[f] }
        = ∫{(∂F/∂f)δ(x-a)+(∂F/∂f')δ'(x-a)}dx    (*)

なので、#1722の計算結果から得られる

  δf(a)/δf(x) = δ(x-a) = δ(a-x) = δf(x)/δf(a)
  δf'(a)/δf(x) = -δ'(x-a) = δ'(a-x) = -δf'(x)/δf(a)

という関係を用いると

        = ∫{(∂F/∂f)δf(a)/δf(x)-(∂F/∂f')δf'(a)/δf(x)}dx
        = ∫{(∂F/∂f)δf(x)/δf(a)+(∂F/∂f')δf'(x)/δf(a)}dx

と書けることがわかるでしょう。

(注:δf/δf, δf'/δf の上下の変数の順序に注意。)


一方、δf(a)/δf(x)=δ(x-a) を x 及び a で偏微分することで

  ∂/∂x(δf(a)/δf(x)) = (∂/∂x)δ(x-a) = δ'(x-a) = -δf'(a)/δf(x)
  ∂/∂a(δf(a)/δf(x)) = (∂/∂a)δ(x-a) = -δ'(x-a) = δf'(a)/δf(x)

という関係(及び x, a を入れ替えたもの)も得られます。これらの関係に注意すると、汎関数微分の第三の定義式は、I[f]の非積分部分 F(x,f(x),f'(x)) を直接 f で変分して、最後を δf/δf で締めくくったようなカタチになっていることがわかります。このときf'(x) の部分は当然 f(x) に依存するとして計算しなくてはなりません。また δf'/δf は上の関係式からδf/δfの微分のカタチになおします。このようにすれば積分記号内での(関数に対する)形式的な変分計算と δf(a)/δf(x)=δ(x-a) の関係式だけから (*) を経由して、求めるべき結果が得られる事になります。

(以上)

  投稿者:EMAN - 2007/06/26(Tue) 23:33  No.1761 
 murakさん、Φマンさん、ありがとうございます。
 これでもやもやしたものが完全に晴れるだろうと思います。

 申し訳ないことに、まだ全然読めていません。
 ここしばらく、少々、欝っぽい自覚症状が出ており、
念のため、頭を使わないようなことをして過ごしております。
 (というより、なぜか使えない。 何だろうなー。)

 しばらく後で、ゆっくり読ませて頂くことにします。
(書いて少しすっきりしました。)